最新記事

日本政治

政治家・菅義偉の「最大の強み」が今、五輪の強行と人心の離反を招く元凶に

An Exit Plan

2021年6月16日(水)19時24分
北島純(社会情報大学院大学特任教授)

菅氏を政治哲学なきマキャベリストだと批判する人もいる。2017年の加計学園疑惑の際に文部科学省が認めた内部文書を「怪文書」と言い放ち、直後に前文部科学事務次官のスキャンダルが新聞で報じられた。「目的のために手段を選ばない」手法も散見されるが、同時に「地方の庶民の暮らしを良くする」という政治理念は一貫してもいる。その相貌から真意は読み取れず、眼光に浮かぶ含意もまた読解困難である。

私は、09年に民主党政権が誕生した際に平野博文官房長官の秘書となり永田町で働き始めた。それから3年3カ月、今となっては「悪夢」とも称される民主党政権下で経験を積んだ後、13年から自民党の山口泰明衆議院議員、15年からは日本のこころを大切にする党の中野正志参議院議員(当時)の政策秘書を務めた。

18年に駐日デンマーク大使館の上席戦略担当官に転じるまでの8年半、「左」から「右」へ流れつつ、民主党とあまりにも違う自民党政治に驚愕したり感嘆したりしながらも、主に「政治とカネ」の問題に関心を持って永田町で働いてきた。

私が仕えた3人の共通点は、菅氏と同じ96年の総選挙で初当選したことだ。政治改革の一環として小選挙区比例代表並立制を初めて導入したこの総選挙は、300もの小選挙区を新設し多くの新人候補者にチャンスを与えた。その1人が菅氏だ。

自民党内で語り継がれる「菅伝説」

当選同期の中で菅氏が特に親交を深めたのが、山口泰明氏、中野正志氏、桜田義孝元五輪相、吉川貴盛元農水相であり、このうち2人がかつての私のボスだった。そこで私は数々の「菅伝説」を聞いた。それは、秋田県雄勝郡秋ノ宮村(現湯沢市)でイチゴ農家の長男として生まれたとか、高校卒業後に上京し、板橋区の段ボール工場で働くうちに一念発起し法政大学法学部政治学科に進学したといった、今では広く知られた話ではない。

むしろ、菅氏が国政進出後にどのようにして自民党内の「喧嘩の勝ち方」を覚えたかとか、政治的師匠である梶山静六元官房長官を98年の自民党総裁選で担いだ際にどのような「身の振り方」をしたのかといった生々しい話であったり、菅事務所の秘書は永田町で一番の激務をこなしつつもボスを敬愛しているとかといった舞台裏の逸話であったりした。

決してカリスマ的な存在感があるわけでもなく、また党人派にありがちな威圧感を売りにするタイプでもないが、「菅伝説」は自民党内で確かに語り継がれていた。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

米ハーバード大、トランプ政権の要求拒絶 補助金23

ビジネス

米、メキシコ産トマトの大半に約21%関税 合意離脱

ビジネス

ニュージーランド、米関税でGDPが予想下回る可能性

ビジネス

大胆な政策対応は賢明でない、不透明感で=アトランタ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプショック
特集:トランプショック
2025年4月22日号(4/15発売)

大規模関税発表の直後に90日間の猶予を宣言。世界経済を揺さぶるトランプの真意は?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜け毛の予防にも役立つ可能性【最新研究】
  • 2
    中国はアメリカとの貿易戦争に勝てない...理由はトランプ関税ではなく、習近平の「失策」
  • 3
    動揺を見せない習近平...貿易戦争の準備ができているのは「米国でなく中国」である理由
  • 4
    あなたには「この印」ある? 特定の世代は「腕に同じ…
  • 5
    「世界で最も嫌われている国」ランキングを発表...日…
  • 6
    NASAが監視する直径150メートル超えの「潜在的に危険…
  • 7
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 8
    シャーロット王女と「親友」の絶妙な距離感が話題に.…
  • 9
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 10
    米ステルス戦闘機とロシア軍用機2機が「超近接飛行」…
  • 1
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最強” になる「超短い一言」
  • 2
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 3
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止するための戦い...膨れ上がった「腐敗」の実態
  • 4
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 5
    クレオパトラの墓をついに発見? 発掘調査を率いた…
  • 6
    「ただ愛する男性と一緒にいたいだけ!」77歳になっ…
  • 7
    投資の神様ウォーレン・バフェットが世界株安に勝っ…
  • 8
    「吐きそうになった...」高速列車で前席のカップルが…
  • 9
    コメ不足なのに「減反」をやめようとしない理由...政治…
  • 10
    まもなく日本を襲う「身寄りのない高齢者」の爆発的…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛ばす」理由とは?
  • 3
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 4
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山…
  • 5
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 6
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 7
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 8
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
  • 9
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 10
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中