中南米諸国が宇宙開発レースに参戦...大いなる夢と、その裏にある危機感の正体
LATIN AMERICA'S MOONSHOT
新時代の宇宙ビジネスに中南米諸国も参入を目指す(写真は米企業スペースXの宇宙船ドラゴン)
<中南米諸国が宇宙開発のための共同機関を設立。人工衛星の打ち上げ、さらには月や火星の有人探査を目指す>
旧ソ連の宇宙飛行士ユーリー・ガガーリンが人類史上初めて108分間の有人宇宙飛行に成功したのは、1961年のことだ。
それから60年。人類が宇宙に飛び立つことは珍しくなくなった......と言いたいところだが、それはあくまでも主にアメリカ、ロシア、中国、ヨーロッパ、日本といった国々の話だ。それ以外の国々は、宇宙開発を活発に行っているとは言い難い。
それでも、中南米諸国はこれまで何十年もの間、宇宙開発国の仲間入りを目指してきた。その最も新しい動きが「ラテンアメリカ・カリブ宇宙機関(ALCE)」の創設だ。中南米の国々が予算と人材と技術を共有することにより、宇宙開発を推し進めようというのだ。
メキシコとアルゼンチンがALCEの創設で合意したのは、2020年10月。ボリビア、エクアドル、エルサルバドル、パラグアイも参加する見通しだ(コロンビアとペルーは差し当たりオブザーバー参加)。
このアイデアが最初に提案されたのは06年のこと。その計画がようやく動き始めたのだ。早ければ、21年末もしくは22年にも最初の人工衛星を打ち上げる計画だという。
人工衛星の打ち上げに適した条件
アメリカや中国の壮大な宇宙開発計画に比べればささやかな目標に見えるかもしれないが、人工衛星ビジネスの重要性は見過ごせない。19年の市場規模は全世界で2710億ドルに達した(この金額には人工衛星の運用に加えて、衛星の製造と打ち上げ、地上設備の製造が含まれる)。これは宇宙関連ビジネス全体の収益の74%に相当する金額だ。
一方、科学者団体「憂慮する科学者同盟」が昨年12月に発表したリポートによれば、いま地球を周回している人工衛星は3400基近く。そのうち、中南米諸国が所有しているもの(共同所有を含む)は50基余りにすぎない。
これまで中南米諸国が宇宙開発に全く力を入れていなかったわけではない。アルゼンチン、ペルー、ブラジル、メキシコ、ボリビアは、宇宙開発を担う政府機関を持っている。アルゼンチンとブラジルは、打ち上げ基地も建設した。赤道近くに位置するコロンビア、ブラジル、ベネズエラ、エクアドルといった国は、アメリカよりも人工衛星の打ち上げに適している。
しかし20世紀末まで、中南米諸国の宇宙プロジェクトが成功したのは、旧ソ連やアメリカと共同で実施した場合だけだった。