中南米諸国が宇宙開発レースに参戦...大いなる夢と、その裏にある危機感の正体
LATIN AMERICA'S MOONSHOT
世界の多くの国は、今日でもアメリカやロシア、ヨーロッパの技術力や設備に依存しているのが現実だ。例えば、20年11月に大型ハリケーン「エタ」がメキシコ南部に上陸した際、同国政府は対策を練るために、欧州宇宙機関(ESA)の衛星画像を購入しなくてはならなかった。
ALCEが発足すれば中南米諸国は、技術面で欧米などから自立し、さらには新しい産業も発展させるチャンスを手にすることになる。宇宙産業は、国の経済を一変させる可能性を秘めている。
ALCEが掲げている長期目標は、画像を撮影するための人工衛星の打ち上げ、宇宙研究への投資拡大、衛星インターネット接続の実現など。それに加えて、月と火星の有人探査など、もっと野心的なプロジェクトも目指している。
確かに、胸躍る可能性ではある。しかし、中南米諸国がこうした大規模な宇宙開発プロジェクトで強い存在感を発揮するためには、いくつもの条件が整わなくてはならない。
莫大な資金を調達できるか
近年、宇宙開発にはますます巨額の資金が必要とされるようになっている。民間資金が流入する時代になって、この傾向にさらに拍車が掛かっている。ALCEの参加予定国の中に、単独で国際的な宇宙開発競争を戦える国はない。
メキシコのマルセロ・エブラルド外相が指摘するように、大半の中南米諸国は宇宙開発競争に参戦する以前に、まずは地上で科学研究と技術開発に大胆な投資をする必要がある。もしも技術開発の遅れを取り戻せず、レースに参戦できなければ、「科学技術分野でますます世界に取り残され、技術水準の低さが足を引っ張って、社会福祉などの分野でもいま抱えている問題を解決できなくなる」と、エブラルドは警告する。
とはいえ今はスタート地点に立ったばかり。大物プレーヤーと互角に競争し、協力し合えるようになるには、これから1つずつ課題をクリアしていく必要がある。
まず必要なのは資金だ。ALCE参加国がそれぞれの宇宙関連予算を1つの中央機関に集中させたとしても、メキシコ、アルゼンチン、ボリビア3カ国の予算の合計は約9550万ドル(うちアルゼンチンの予算が8150万ドルで大半を占める)。19年に世界各国の政府が宇宙産業に投じた公的資金は計200億ドルで、その200分の1にも満たないALCEにできることはたかが知れている。