最新記事

宇宙

中南米諸国が宇宙開発レースに参戦...大いなる夢と、その裏にある危機感の正体

LATIN AMERICA'S MOONSHOT

2021年6月8日(火)18時17分
ミリアム・ビダル・バレロ(サイエンス・ライター)

世界の多くの国は、今日でもアメリカやロシア、ヨーロッパの技術力や設備に依存しているのが現実だ。例えば、20年11月に大型ハリケーン「エタ」がメキシコ南部に上陸した際、同国政府は対策を練るために、欧州宇宙機関(ESA)の衛星画像を購入しなくてはならなかった。

ALCEが発足すれば中南米諸国は、技術面で欧米などから自立し、さらには新しい産業も発展させるチャンスを手にすることになる。宇宙産業は、国の経済を一変させる可能性を秘めている。

ALCEが掲げている長期目標は、画像を撮影するための人工衛星の打ち上げ、宇宙研究への投資拡大、衛星インターネット接続の実現など。それに加えて、月と火星の有人探査など、もっと野心的なプロジェクトも目指している。

確かに、胸躍る可能性ではある。しかし、中南米諸国がこうした大規模な宇宙開発プロジェクトで強い存在感を発揮するためには、いくつもの条件が整わなくてはならない。

莫大な資金を調達できるか

近年、宇宙開発にはますます巨額の資金が必要とされるようになっている。民間資金が流入する時代になって、この傾向にさらに拍車が掛かっている。ALCEの参加予定国の中に、単独で国際的な宇宙開発競争を戦える国はない。

メキシコのマルセロ・エブラルド外相が指摘するように、大半の中南米諸国は宇宙開発競争に参戦する以前に、まずは地上で科学研究と技術開発に大胆な投資をする必要がある。もしも技術開発の遅れを取り戻せず、レースに参戦できなければ、「科学技術分野でますます世界に取り残され、技術水準の低さが足を引っ張って、社会福祉などの分野でもいま抱えている問題を解決できなくなる」と、エブラルドは警告する。

とはいえ今はスタート地点に立ったばかり。大物プレーヤーと互角に競争し、協力し合えるようになるには、これから1つずつ課題をクリアしていく必要がある。

まず必要なのは資金だ。ALCE参加国がそれぞれの宇宙関連予算を1つの中央機関に集中させたとしても、メキシコ、アルゼンチン、ボリビア3カ国の予算の合計は約9550万ドル(うちアルゼンチンの予算が8150万ドルで大半を占める)。19年に世界各国の政府が宇宙産業に投じた公的資金は計200億ドルで、その200分の1にも満たないALCEにできることはたかが知れている。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

豊田織機の非公開化報道、トヨタ「一部出資含め様々な

ビジネス

中国への融資終了に具体的措置を、米財務長官がアジア

ビジネス

ベッセント長官、日韓との生産的な貿易協議を歓迎 米

ワールド

アングル:バングラ繊維産業、国内リサイクル能力向上
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
2025年4月29日号(4/22発売)

タイ・ミャンマーでの大摘発を経て焦点はカンボジアへ。政府と癒着した犯罪の巣窟に日本人の影

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 2
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは? いずれ中国共産党を脅かす可能性も
  • 3
    トランプ政権の悪評が直撃、各国がアメリカへの渡航勧告を強化
  • 4
    健康寿命は延ばせる...認知症「14のリスク要因」とは…
  • 5
    アメリカ鉄鋼産業の復活へ...鍵はトランプ関税ではな…
  • 6
    関税ショックのベトナムすらアメリカ寄りに...南シナ…
  • 7
    ロケット弾直撃で次々に爆発、ロシア軍ヘリ4機が「破…
  • 8
    ロシア武器庫が爆発、巨大な火の玉が吹き上がる...ロ…
  • 9
    ビザ取消1300人超──アメリカで留学生の「粛清」進む
  • 10
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 1
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 2
    「生はちみつ」と「純粋はちみつ」は何が違うのか?...「偽スーパーフード」に専門家が警鐘
  • 3
    「スケールが違う」天の川にそっくりな銀河、宇宙初期に発見される
  • 4
    【クイズ】「地球の肺」と呼ばれる場所はどこ?
  • 5
    女性職員を毎日「ランチに誘う」...90歳の男性ボラン…
  • 6
    教皇死去を喜ぶトランプ派議員「神の手が悪を打ち負…
  • 7
    『職場の「困った人」をうまく動かす心理術』は必ず…
  • 8
    自宅の天井から「謎の物体」が...「これは何?」と投…
  • 9
    「100歳まで食・酒を楽しもう」肝機能が復活! 脂肪…
  • 10
    トランプ政権はナチスと類似?――「独裁者はまず大学…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった...糖尿病を予防し、がんと闘う効果にも期待が
  • 3
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 4
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 5
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 8
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 9
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中