中南米諸国が宇宙開発レースに参戦...大いなる夢と、その裏にある危機感の正体
LATIN AMERICA'S MOONSHOT
しかも中南米諸国の宇宙関連予算は縮小傾向にある。18年にはエクアドル政府の緊縮財政のあおりを受けエクアドル宇宙研究所が閉鎖された。メキシコ政府も宇宙関連を含め科学技術予算を減らしている。もっとも、メキシコ外務省の地域機関・機構部門を率いるエフライン・グアダラマは予算縮小の流れを大して懸念していないようだ。彼に言わせると、大型予算は必要ない。大事なのは政治的な意志の有無だ。
しかし、その政治的な意志も心もとない。何しろALCEはまだ内部の意思統一ができていない。どういう形で連携するか、参加国がどれだけ資金を拠出し、どれだけ人材などのリソースを提供するか。どこに本部を置くか。採用する通貨は?
これから外交交渉を重ねて、利害調整をしなければならない細かな事柄が山ほどある。メキシコ宇宙機関の宇宙科学技術普及部門を率いるマリオ・アレオラは、ALCEが本格的に動きだすには「少なくとも3年くらいはかかる」と言う。
既に有望なベンチャーが胎動
また、中南米諸国の技術水準には大きなばらつきがある。ALCEを引っ張っていくには技術格差に配慮しつつ協力体制を築く必要があり、政治力と組織力が求められると同時に、先端技術の知識も必要になる。
最後にもう1つ課題がある。21世紀の宇宙探査の大きな特徴は民間資本の参入だ。ALCEを単なる参加国の宇宙関連予算の寄せ集めで実現できるプロジェクトで終わらせたくないなら、ALCE自体も、そして参加国それぞれも、民間部門の力を積極的に活用する必要がある。
中南米諸国でも既に有望な民間プロジェクトが胎動している。アルゼンチン発の米企業スカイルームは静止軌道の衛星を中継に活用する低軌道衛星同士のネットワークの構築を計画しているし、米自治領プエルトリコの企業インスターツは生存に必要な全ての装置を備えた自立型の月面エコシステム「レムナント」を開発した。宇宙飛行士が1年間、月面で生活し作業を行えるカプセルだ。
宇宙探査・宇宙開発の推進は地上における生活水準の向上につながると、アレオラは指摘する。「宇宙に送り込むために購入される物資は全て地上で購入されるし、宇宙産業で働く人は全て地上で働く」
ALCEが目指すのは火星や月探査への参入にとどまらない。そこには地域の科学技術と文化を世界に発信する狙いがある。参加国のリソースを結集し、宇宙産業の持続的な発展を支えることで、中南米チームが宇宙開発競争に本格的に参戦できるようになれば、地域だけでなく世界にも価値ある貢献ができる。
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