EU非加盟のスイスが「EU離脱」を発表...一体どういうことか?
SWITZERLAND’S BREXIT MOMENT
スイスとEUの長年の交渉は決裂 FRANCOIS WALSCHAERTSーPOOLーREUTERS
<EUには加盟していない一方で、加盟国以上に単一市場から恩恵を受けるという「ただ乗り」状態がついに終わる?>
5月末、EUと長らく続けてきた「制度的枠組み条約(IFA)」の締結交渉から離脱するとスイス政府が発表したことで、スイスとEUの二者関係における深刻な危機が表面化した。
EU単一市場へのアクセス拡大の基礎とするためEUとの関係を成文化するとしたこの交渉の決裂は、EU側にしてみればまだ対処可能。スイスとの経済関係に傷は付くが、EUの大勢に影響はない。
だがスイスにとっては、もっと劇的な変化が待ち受ける。将来的にEU単一市場へのアクセスが困難になれば、ブレグジット(EU離脱)のイギリスと同じくらい根本的に、EUとの関係を考え直さざるを得なくなるかもしれない。
スイスはEU非加盟だが、多くの点で加盟国に近い立場にある。人の移動の自由を定めたシェンゲン協定に加盟し、輸送や研究開発などでEUにほぼ統合され、EU単一市場への完全なアクセスを謳歌している。
結局のところ、スイスはいかなるEU加盟国よりも多くの恩恵を単一市場から受け、その見返りはほとんど支払っていない。
スイスのただ乗りは経済だけにとどまらない。国民投票で欧州経済地域(EEA)への不参加を決定した1992年以来、スイスが取ってきた「二者交渉」の手法の問題点は、EUの度重なる法律変更をスイスが国内法に適用しなかったことだ。
IFAの交渉でもEUは大幅な譲歩
スイスの世論は長年、「外国の判事」はスイスの法律に口出しすべきでないと考えてきた。これは超国家的ルールを各国に均一に適用させようとするEUの方針とは衝突する。
IFAの交渉でもEUは、国家主権を主張するスイスにかなりの譲歩を許すことになった。それでも結局、スイス政府はIFAにサインすることはなかった。
交渉を困難にしたのは、国家援助(特定の企業や製品に対する援助)に関する意見の不一致だ。EUは、スイス国内でEUのルール適用を求めるものの、運用はスイス国内の監視機構に任せるとの妥協案を示した。だがブレグジットの交渉を見守るうちに、スイスの一部勢力は、イギリスのほうが「マシな」国家援助合意を勝ち取ったのではないかと考えた。
こうした「ブレグジット羨望」は完全に見当違いだ。イギリスは単一市場からの離脱が目的だが、スイスのIFAの目的は単一市場にとどまることだったのだから。
だがEU側のさらなる頭痛のタネは、移動の自由によってスイス国民の社会保障や賃金水準に悪影響が及ぶ可能性にスイスが猛反発したことだ。ここでもEUはスイス人労働者を優先するスイス国内法を認めるなどの譲歩を迫られた。