中国共産党建党100周年にかける習近平──狙いは鄧小平の希薄化
習近平は逆に、この鄧小平を「過渡期の指導者」として「鄧小平+江沢民+胡錦涛」の3人の中に押し込めてしまったのである。
習近平は父・習仲勲を破滅に追いやった鄧小平を絶対に許さないだろう。
しかし鄧小平は日本によって救われ、神格化されてしまった。
すなわち、1989年6月4日の天安門事件に対して西側諸国が断行した対中経済封鎖という制裁を、日本が解除させたことによって、民主を叫ぶ若者を武力で鎮圧したことが免罪され、その後の中国経済の発展を可能ならしめた。
結果、中国を含めた世界各国が、鄧小平の罪悪をサッサと忘れて、「人権を蹂躙してもかまわない。経済を発展させれば功労者」というイメージを広めたので、中国国内でも鄧小平を否定することはなかなかできない状況にあった。
そこで習近平はできるだけ「目立たないように」、「復讐の形」を実現していっている。
この展示コーナーの大小は、工夫に工夫を重ねた結果だとみなすことができよう。
「不忘初心」の「初心」が指すのは毛沢東と父・習仲勲
「中国共産党歴史展覧館」の頭には「不忘初心 牢記使命」という8文字がある。
「初心忘るべからず 使命を心に深く刻め」という意味だ。
この「初心」が指すのは、毛沢東と父・習仲勲であると解釈することができる。
なぜなら新中国建国は延安革命根拠地があったからこそ成功したのだが、延安があった陝北革命根拠地(西北革命根拠地)をゼロから築いたのは習仲勲たちだからだ。
しかし鄧小平は、習仲勲らに感謝し西北革命根拠地を重視する毛沢東の目を欺いて陰謀を重ね、習仲勲を失脚へと追い込み、1962年から1978年までの16年間の長きにわたって習仲勲に投獄・軟禁・監視という屈辱の限りを強いた。
鄧小平の陰謀によって、長征(国民党軍から逃れるために、毛沢東率いる中国共産党軍が西北を目指して1934年から1936年にかけて徒歩で1万2500kmを移動)の着地点であった延安の存在が薄められていったと同時に、長征そのものも高く評価されることが少なくなっていた。
毛沢東など、新中国誕生後にただの一度も延安を訪れることがないまま文化大革命に突入してしまい、延安を再訪しないまま生涯を閉じた。
2016年、長征成功の80周年を記念して、習近平は「長征」の存在意義を復活させ、毛沢東が歩んだ重要地点を自ら訪れて、父の故郷陝西省にある延安に戻った。
この時から中国は真っ赤に燃え始める。
習近平は自分を毛沢東に重ねて、「鄧小平を希薄化」しようとしているのである。
しかし、日本によって神格化されてしまった鄧小平をあからさまに希薄化することは、なかなかできない。
中国共産党歴史展覧館における習近平と鄧小平の展示スペースの差は、ようやく鄧小平への復讐を具現化した小さな一歩と解釈することができよう。
7月1日のパレードでは、もう一歩進んだ形での「鄧小平の希薄化」が具現化されるかもしれない。
※当記事はYahoo!ニュース 個人からの転載です。
[執筆者]遠藤 誉
中国問題グローバル研究所所長、筑波大学名誉教授、理学博士
1941年中国生まれ。中国革命戦を経験し1953年に日本帰国。中国問題グローバル研究所所長。筑波大学名誉教授、理学博士。中国社会科学院社会学研究所客員研究員・教授などを歴任。著書に『裏切りと陰謀の中国共産党建党100年秘史 習近平 父を破滅させた鄧小平への復讐』(ビジネス社、3月22日出版)、『ポストコロナの米中覇権とデジタル人民元』、『激突!遠藤vs田原 日中と習近平国賓』、『米中貿易戦争の裏側 東アジアの地殻変動を読み解く』,『「中国製造2025」の衝撃 習近平はいま何を目論んでいるのか』、『毛沢東 日本軍と共謀した男』、『卡子(チャーズ) 中国建国の残火』、『ネット大国中国 言論をめぐる攻防』、『中国がシリコンバレーとつながるとき』など多数。
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