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日本社会

外国人を犯罪者予備軍とみなす日本の入管の許されざる実態

2021年5月25日(火)16時45分
にしゃんた(羽衣国際大学教授、タレント)



私はここで法を犯すことをすすめている訳でも肯定しているわけでもない。法律は守るべきだ。だが、国家の物差しでは罪人でも、グローバルに見れば超がつくほど善人であることも大いにあり得る。人格評価をする際は、国家の枠組みはもちろんだが、我々は想像力をはたらかせ広い視野で人を見る目をもち、弱者に温かい言葉や手を差し伸べるべきではないか。

ウィシュマさんは高い志をもって日本に来たが、なんらかの事情で道を踏み外したのかもしれない。そして、今回のコロナという想定外の事情も重なった。だがいかなる理由があろうとも人間の命を奪う権利は誰にもない。日本は文明国家なのだ。そのようなことが起きていいはずがない。

私はこの国、日本が好きだ。だからこそ国籍も頂いてこの地で骨を埋める決意でいる。日本の一番好きなところはと聞かれたら、迷わず「性善説の上で成り立っている日本という国と日本人」と答えたい。日本人は人を疑わない。「無人販売」の文化が成立する国はおそらく世界どこを探してもない。人を善人と信じている分かりやすい例だ。

だが、この国の入国管理局と警察は、外国人を基本的に犯罪者予備軍として見ている。外国人を性悪説で見ている。国民の中にも、特定の人種、ありていに言えば白人以外の外国人を、そのように見る傾向があることは否定できない。スリランカの彼女が亡くなったのもまさに日本の入管と警察が性悪説に立脚して彼女を扱った結果だ。出頭しDVを相談した彼女を守るべき対象として、警察はシェルターに保護を依頼すべきところを入国管理局につなげた背景も、入管収容施設で彼女が命乞いするも仮病と決めつけて放置し、死なせたのも性悪説に立脚した決めつけがもたらしたものだ。

日本の警察と入国管理局において、外国人が犯罪者予備軍として管理の対象となっている以上、外国人を人間として、いわば人権を重視した対応は不可能だ。一般的な日本人の皆さんには想像しづらいと思うが、一度騙されたと思って外国人の友人とともに入管に行ってみれば分かる。そこには見慣れた日本人の笑顔も丁寧語もない。表情は険しく、言葉も基本的に乱暴だ。入管や警察にとっての任務である「管理」と「人道」は相容れない。「人道に基づいた管理」が望ましいが現状の体制では期待が出来ない。

管理と人道を両立させる欧州

先日アフリカの北端のスペイン領セウタに隣のモロッコから2日で8000人を超える大量の難民が流入したというニュースがあった。ニュースを見ているとスペイン側で戦車が導入され難民の入国を防ぐために警棒のようなものを使って不法入国者を誘導している映像が映っている。だがそれと同時に医療チームが国境を渡る際に弱りきっている者に対して医療処置を行なっている姿があった。そこでは管理と人道が同居していた。入国管理は大事だが、命を守る義務を最優先に考えている姿が垣間見えた瞬間だった。

他所の国の例をあげてくるまでもない。そもそも日本は人道を重んじる国ではないか。第二次対戦中にナチスドイツに迫害によって発生した2000人を超える難民に対して命のビザを発行した東洋のシンドラーこと杉原千畝を忘れてはなるまい。国家よりも命を優先した彼が残した「大したことをしたわけではない。当然のことをしただけです」という千畝の言葉の意味を、この際、改めて噛み締めたい。人の道を生きた日本人らしさを探せばきりがない。その中でも印象に残るものと言えば、第一次世界大戦期、徳島県鳴門市の俘虜収容所にいた約1000名の捕虜と日本人の人間味あふれる交流の物語などが思い浮かぶ。

このご時世に「なぜ難民を受け入れる必要があるのか」と私は素朴な質問を受けることがある。簡単にいえば、日本は難民条約に批准しているからだ。しかし先進国と比べた場合、日本の受け入れはあまりにも少なすぎる。申請者の約半分を受け入れているカナダやイギリス、3割近く受け入れているアメリカやドイツなどと比べ日本はわずか0.2%だ。受け入れ割合の低さもさることながら、世界的に認められる女性性器切除(FGM)やDV被害などは日本では難民認定の理由として見なされていない。

難民認定申請が認められない理由も明らかにされていなければ、審査に際して費やす時間も長い日本で、いわば制度側の原因で生活や精神的に不安定な長期滞在を余儀なくされている者も多い。司法や第三者機関の関与もない日本の現状では、とてもではないが難民側に責任があるとは言えない。国連の人権条約機関からは再三にわたる勧告を受けている。

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