新型コロナが「ただの風邪症状を引き起こすウイルス」になると考えられる2つの理由
OUR FUTURE WITH COVID-19
2030年の世界では、多くの人は、小児期に自然流行かワクチン接種によって今回の新型コロナウイルスに対する免疫を獲得する。
そうした子供たちは、成人になってからも、変異した新型コロナウイルス(このウイルスは一本鎖のRNAウイルスで、こうした遺伝子構造を有するウイルスは変異を起こしやすいことが知られている)に暴露され感染するが、その時には、小児期に獲得した免疫が部分的に働くことによって重症化する危険性は低くなる。
現在でも、ヒト・コロナウイルスとして知られる4種類のコロナウイルス(HCoV-229E、HCoV-OC43、HCoV-NL63、HCoV-HKU1)は、風邪症状の10~15%を占めるが、重症化することはほとんどない。
人類史と感染症の関係を考えれば、こうしたヒト・コロナウイルスも、かつて、野生動物からヒト社会へ持ち込まれ、どれくらいの時間を必要としたか(これは、ウイルスがヒト社会へ持ち込まれた時期による)は別として、パンデミックを引き起こし、やがて社会が集団免疫を獲得することによって、穏やかな風邪症状を引き起こすだけのウイルスになったと考えるのが妥当だ。
さらに言えば、ここまでの話はヒトの視点で今回の新型コロナウイルス感染症を見てきたが、「ウイルスの目線」でヒトとウイルスの関係を見てみるとまた、異なる風景が見えてくる。
宿主の生存可能性を担保
ウイルスが生命か否かをめぐっては、ウイルス研究者の間でも熱い議論が戦わされているが、その議論とは別に、ウイルスはその複製や増殖に宿主の存在を絶対的に必要とする有機体であることは間違いない。
とすれば、ウイルスが究極的に宿主の存在を否定するとは考えられない。むしろ、宿主の生存可能性を担保しようとする方向、あるいは宿主の環境適応能力を高める方向への進化を志向するというのが、現在の多くのウイルス研究者の認識となっている。
例えば、哺乳動物の子宮内にある胎盤は、遠い祖先が感染したウイルスが残した遺伝子の働きで作られたといわれている。
ウイルスが人間などに感染するために持っている、宿主の免疫を阻害する力「免疫抑制能力」が胎盤に受け継がれ、母体が胎児を異物として排除しようとする働きから胎児を守っていると考えられている。
現生人類が持つ遺伝子には、遠い祖先が感染したウイルスに由来するものが多くある。私たちが環境に適応して自然淘汰を生き抜いていくために、ウイルスが移転した遺伝子は大きな役割を果たしてきた。
また、ウイルスはヒトと比較して複製の速度が何十万倍、何百万倍と速い。その速い複製の速度を利用して、次々とその姿を変えていく。
そうした複製の速度は、人類が根絶への淘汰圧を高めれば高めるほど速くなる。そうした意味において、ウイルスを完全に撲滅し排除しようとする行為は、そうすればするほど、それは絶望的な戦いにしかならないということになる。