最新記事

新型コロナウイルス

新型コロナが「ただの風邪症状を引き起こすウイルス」になると考えられる2つの理由

OUR FUTURE WITH COVID-19

2021年5月7日(金)16時15分
山本太郎(長崎大学熱帯医学研究所教授)

ここでは、3つのシナリオを提示することによって(ただし経済については言及せず、ウイルスの流行状況にのみ焦点を当てることとする)、例えば、2030年の世界を考えてみたい。

穏やかな症状のウイルスに

まずは、最悪のシナリオとして、新型コロナウイルス感染症が依然として世界を震撼させているというシナリオだ。世界中の都市は封鎖とその解除を繰り返す。

このシナリオが妥当性を持つためには、ウイルスの変異株が次々と生じ、生じた変異株に対しては、それまでに獲得した免疫が全く効果を発揮しないという前提が必要になる。

210427P26hospital_CON_02.jpg

新型コロナが猛威を振るい続ける最悪のシナリオはあり得るのか AMANDA PEROBELLI-REUTERS

第2に、新型コロナウイルスは比較的穏やかな風邪症状を引き起こすウイルスとして社会に定着するが、あまり重症化することはなく、私たちはそのウイルスと共に生きていく。

そして第3のシナリオが、ウイルスを完全に根絶した社会ということになる。

結論から言えば、第2のシナリオ、すなわち、新型コロナウイルスは比較的穏やかな風邪症状を引き起こすウイルスとして社会に定着するというシナリオが最も妥当だろうと考えられる。

そう考えるための理由はいくつかある。

第1に、新型コロナウイルス感染に対しては、中和抗体が誘導されることが挙げられる。これは、新型コロナウイルス感染症から回復した人の体内には、感染を抑制するか、あるいは重症化を防ぐための抗体ができることを意味する。

もちろん、変異株ウイルスに対して中和抗体が効果を発揮しない可能性は全くゼロとは言えないが、それは、理論上の可能性にすぎない。

これまでのウイルス学の知見からすれば、あるウイルス株に中和抗体を誘導する免疫は、そのウイルスの変異株に対しても部分的には有効であると考えるのが妥当だ。

一方で言えば、そうした既存の抗体が効果を発揮できないウイルスは新型ウイルスと呼ばれ、そうした新型ウイルスは野生動物からの接触を通してヒト社会へもたらされる別のウイルスということになる。

第2として、小児における重症化率が低いという事実がある。

小児期の感染では重症化が少ないことは、中国やシンガポールから発表された18編の論文の系統的レビューを行った論文からも明らかであり、死亡例はほとんどないこともその論文で報告されている。これは大きな朗報だ。

この知見からは、今回の新型コロナウイルス感染症で高齢者が重症化する1つの理由として、新型ゆえに高齢になって初めて新型コロナウイルスに感染したという状況が示唆される。

こうしたことを演繹し、10年後の世界を想像すれば、次のような姿が見えてくる。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

アングル:フィリピンの「ごみゼロ」宣言、達成は非正

ワールド

イスラエル政府、ガザ停戦合意を正式承認 19日発効

ビジネス

米国株式市場=反発、トランプ氏就任控え 半導体株が

ワールド

ロシア・イラン大統領、戦略条約締結 20年協定で防
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプ新政権ガイド
特集:トランプ新政権ガイド
2025年1月21日号(1/15発売)

1月20日の就任式を目前に「爆弾」を連続投下。トランプ新政権の外交・内政と日本経済への影響は?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼いでいるプロゲーマーが語る「eスポーツのリアル」
  • 2
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べている」のは、どの地域に住む人?
  • 3
    轟音に次ぐ轟音...ロシア国内の化学工場を夜間に襲うウクライナの猛攻シーン 「ATACMSを使用」と情報筋
  • 4
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 5
    「搭乗券を見せてください」飛行機に侵入した「まさ…
  • 6
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者…
  • 7
    ドラマ「海に眠るダイヤモンド」で再注目...軍艦島の…
  • 8
    「ウクライナに残りたい...」捕虜となった北朝鮮兵が…
  • 9
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 10
    雪の中、服を脱ぎ捨て、丸見えに...ブラジルの歌姫、…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 3
    睡眠時間60分の差で、脳の老化速度は2倍! カギは「最初の90分」...快眠の「7つのコツ」とは?
  • 4
    メーガン妃のNetflix新番組「ウィズ・ラブ、メーガン…
  • 5
    轟音に次ぐ轟音...ロシア国内の化学工場を夜間に襲う…
  • 6
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 7
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 8
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼い…
  • 9
    ドラマ「海に眠るダイヤモンド」で再注目...軍艦島の…
  • 10
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べて…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    大腸がんの原因になる食品とは?...がん治療に革命をもたらす可能性も【最新研究】
  • 3
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 4
    夜空を切り裂いた「爆発の閃光」...「ロシア北方艦隊…
  • 5
    インスタント食品が招く「静かな健康危機」...研究が…
  • 6
    ロシア軍は戦死した北朝鮮兵の「顔を焼いている」──…
  • 7
    TBS日曜劇場が描かなかった坑夫生活...東京ドーム1.3…
  • 8
    「涙止まらん...」トリミングの結果、何の動物か分か…
  • 9
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 10
    「戦死証明書」を渡され...ロシアで戦死した北朝鮮兵…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中