新型コロナが「ただの風邪症状を引き起こすウイルス」になると考えられる2つの理由
OUR FUTURE WITH COVID-19
ここでは、3つのシナリオを提示することによって(ただし経済については言及せず、ウイルスの流行状況にのみ焦点を当てることとする)、例えば、2030年の世界を考えてみたい。
穏やかな症状のウイルスに
まずは、最悪のシナリオとして、新型コロナウイルス感染症が依然として世界を震撼させているというシナリオだ。世界中の都市は封鎖とその解除を繰り返す。
このシナリオが妥当性を持つためには、ウイルスの変異株が次々と生じ、生じた変異株に対しては、それまでに獲得した免疫が全く効果を発揮しないという前提が必要になる。
第2に、新型コロナウイルスは比較的穏やかな風邪症状を引き起こすウイルスとして社会に定着するが、あまり重症化することはなく、私たちはそのウイルスと共に生きていく。
そして第3のシナリオが、ウイルスを完全に根絶した社会ということになる。
結論から言えば、第2のシナリオ、すなわち、新型コロナウイルスは比較的穏やかな風邪症状を引き起こすウイルスとして社会に定着するというシナリオが最も妥当だろうと考えられる。
そう考えるための理由はいくつかある。
第1に、新型コロナウイルス感染に対しては、中和抗体が誘導されることが挙げられる。これは、新型コロナウイルス感染症から回復した人の体内には、感染を抑制するか、あるいは重症化を防ぐための抗体ができることを意味する。
もちろん、変異株ウイルスに対して中和抗体が効果を発揮しない可能性は全くゼロとは言えないが、それは、理論上の可能性にすぎない。
これまでのウイルス学の知見からすれば、あるウイルス株に中和抗体を誘導する免疫は、そのウイルスの変異株に対しても部分的には有効であると考えるのが妥当だ。
一方で言えば、そうした既存の抗体が効果を発揮できないウイルスは新型ウイルスと呼ばれ、そうした新型ウイルスは野生動物からの接触を通してヒト社会へもたらされる別のウイルスということになる。
第2として、小児における重症化率が低いという事実がある。
小児期の感染では重症化が少ないことは、中国やシンガポールから発表された18編の論文の系統的レビューを行った論文からも明らかであり、死亡例はほとんどないこともその論文で報告されている。これは大きな朗報だ。
この知見からは、今回の新型コロナウイルス感染症で高齢者が重症化する1つの理由として、新型ゆえに高齢になって初めて新型コロナウイルスに感染したという状況が示唆される。
こうしたことを演繹し、10年後の世界を想像すれば、次のような姿が見えてくる。