最新記事

中国共産党

中国で真っ赤に燃える建党100周年の「紅色旅游」

2021年5月12日(水)17時52分
遠藤誉(中国問題グローバル研究所所長)

中国の大学を卒業した後に欧米に留学する人たちの動向を調べていた関係上、大卒生のさまざまな選択を調査することになったのだが、その時にショックを受けたことがある。

それは雲南省の老革命区と言われた場所に行った時のことだ。

雲南省には曾澤生という長春食糧封鎖の時に共産党軍に寝返った国民党第60軍の将がいた。私は1946年から第60軍兵士とともに長春にいたのだから、雲南省第60軍というのは、あの恐ろしい時代を想起させ、心を不気味にざわつかせる。

雲南省には当然のことながら中国共産党軍の革命根拠地もあったわけだが、そこには、まるで原始時代の世界にタイムスリップしたのかという錯覚に陥るほどの荒廃した地区が広がっていた。アヘンに関する「黄金の三角地帯」を彷彿とさせ、地面から毒虫が這い上がって来るのではないかという恐怖さえ覚えた。

これは決して雲南省であったからではないと思う。どの革命根拠地に行っても、その恐ろしいばかりの荒廃ぶりは程度の差こそあれ共通していた。

もちろんどの地域の革命根拠地も、交通の便が悪い所に建設されていたことは事実だ。鉄道や道路など交通の便が良ければ、すぐに国民党軍にやられる。国民党軍が入ってこられないような場所に革命根拠地を築くのが基本ではある。

だから改革開放の恩恵を浴することなく見捨てられて行き、結果、高速鉄道建設促進の宣伝の一つとして「紅色旅游」が出現したことは分かる。

しかし、革命根拠地がなかったら新中国(中華人民共和国)は誕生していなかったはずだから、それを「ここまで見捨てるのか」という疑問が、それとなく心の中でずっとわだかまっていた。

ところが今般、『習近平 父を破滅させた鄧小平への復讐』を書いたことによって、ハッとしたことがある。

それは鄧小平が習仲勲(習近平の父)など、延安を中心とした西北革命根拠地の功労者たちを失脚させ、西北革命根拠地の意義を薄めたことによって、他の個所も含めた全ての「革命根拠地」という概念そのものを希薄化させる結果を招いていたのではないかということだ。

このたび、本コラム「紅色旅游」に焦点を当てたことによって、この事実に気が付いてハッとしたのである。

鄧小平は1997年に他界しているので、その後は「革命根拠地=老革命区」が果たした役割に関して焦点を当てることが許されるようになったという流れがある。

拙著『習近平 父を破滅させた鄧小平への復讐』の第四章冒頭(p.166-167)にも書いたように、胡錦涛政権第二期(の2008年)になると、鄧小平が失脚に追いやった華国鋒(失脚前は中共中央主席・国務院総理・中央軍事委員会主席)の名誉回復をする動きが顕著になり、「環原華国鋒(華国鋒の真相を掘り起こせ)」という論文が胡錦涛政権の認可を得る雰囲気が生まれていた。

習近平政権において「紅色旅游」が真っ盛り

習近平がこの「紅色旅游」プロジェクトをフルに活用しないはずがないだろう。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

米英欧など18カ国、ハマスに人質解放要求 ハマスは

ビジネス

米GDP、第1四半期は+1.6%に鈍化 2年ぶり低

ビジネス

米新規失業保険申請5000件減の20.7万件 予想

ビジネス

ECB、インフレ抑制以外の目標設定を 仏大統領 責
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 2

    今だからこそ観るべき? インバウンドで増えるK-POP非アイドル系の来日公演

  • 3

    「誹謗中傷のビジネス化」に歯止めをかけた、北村紗衣氏への名誉棄損に対する賠償命令

  • 4

    心を穏やかに保つ禅の教え 「世界が尊敬する日本人100…

  • 5

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 6

    未婚中高年男性の死亡率は、既婚男性の2.8倍も高い

  • 7

    やっと本気を出した米英から追加支援でウクライナに…

  • 8

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 9

    自民が下野する政権交代は再現されるか

  • 10

    ワニが16歳少年を襲い殺害...遺体発見の「おぞましい…

  • 1

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 2

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 3

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた「身体改造」の実態...出土した「遺骨」で初の発見

  • 4

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 5

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 6

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 7

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 8

    NewJeans日本デビュー目前に赤信号 所属事務所に親…

  • 9

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 10

    「誹謗中傷のビジネス化」に歯止めをかけた、北村紗…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の瞬間映像をウクライナ軍が公開...ドネツク州で激戦続く

  • 4

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 5

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 6

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこ…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 9

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 10

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中