中国で真っ赤に燃える建党100周年の「紅色旅游」
2016年年末、第十二次五ヶ年計画の結果報告として300ヵ所の「全国紅色旅游リスト」が公布され、習近平の「初心忘るべからず」というスローガンに沿って、中国共産党が誕生した1921年から1949年の建国までに貢献した革命根拠地が強調された。
もちろん「革命の聖地、延安」をさえ希薄化した鄧小平に対する復讐心が習近平の心の内にはみなぎっていただろう。
2016年10月には「長征80周年記念大会」 を開いて、「長征の道を再びたどろう」という「専用列車路線図」までが示されるようになった。
これは確かに、毛沢東が文化大革命の時に血気に燃える紅衛兵たちに全国各地に行く専用列車を無料手配した歴史を彷彿とさせる。だから、「ほらね、習近平は第二の文革を行おうとしているんだ」という短絡的な噂が日本でも散見される。
しかし見逃してはいけない。
文革時代の紅衛兵のための専用列車は「無料」だっただけでなく、宿泊費も食費も国が負担してあげていた。
それに対して、現在の「紅色旅游」は有料だ。これは観光産業促進のための一環なので、党や政府のウェイブサイトのあちこちに、「紅色旅游の経済効果」を誇るデータが示されている。
特にコロナで海外旅行ができない富裕層家庭の青少年に対して、旅行欲を満足させるとともに「初心を忘れず、党の歴史を学ばせる」という効果もあり、習近平としては一石二鳥以上の「ホクホク」のプログラムだ。
2021年3月23日、中国共産党新聞は「建国百年紅色旅游百選」の「お勧めコース」を発表した。発表したのは中共中央宣伝部副部長で文化・旅游部部長でもある胡和平だ。このことからも「旅游産業(観光産業)」が関係していることが分かるだろう。
しかも、胡和平は習近平政権になった後の2015年から、習近平の父・習仲勲の生まれ故郷である陝西省の党委員会副書記に任命され、2017年には陝西省の書記に昇格し、2020年7月に現職に就いている。
陝西省はもちろん延安がある西北革命根拠地の中核を成した地区だ。
「中国共産党新聞」の「党史頻道(チャンネル)」にも「紅色旅游」のページがあり、習近平がどれだけ「紅色旅游」に力を入れているかが見て取れる。
習近平政権における「紅色旅游」の真の意味合いを理解するためにも、拙著『習近平 父を破滅させた鄧小平への復讐』で描いた「裏切りと陰謀の中国共産党100年秘史」の真相を直視しないと、習近平政権の現在と未来を分析することはできないと確信する。
※当記事はYahoo!ニュース 個人からの転載です。
[執筆者]遠藤 誉
中国問題グローバル研究所所長、筑波大学名誉教授、理学博士
1941年中国生まれ。中国革命戦を経験し1953年に日本帰国。中国問題グローバル研究所所長。筑波大学名誉教授、理学博士。中国社会科学院社会学研究所客員研究員・教授などを歴任。著書に『裏切りと陰謀の中国共産党建党100年秘史 習近平 父を破滅させた鄧小平への復讐』(ビジネス社、3月22日出版)、『ポストコロナの米中覇権とデジタル人民元』、『激突!遠藤vs田原 日中と習近平国賓』、『米中貿易戦争の裏側 東アジアの地殻変動を読み解く』,『「中国製造2025」の衝撃 習近平はいま何を目論んでいるのか』、『毛沢東 日本軍と共謀した男』、『卡子(チャーズ) 中国建国の残火』、『ネット大国中国 言論をめぐる攻防』、『中国がシリコンバレーとつながるとき』など多数。
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