アメリカはなぜ台湾を支援するのか──背後に米中ハイテク競争
その建設費が初期の予想の6倍もかかるとして、今年2月11日、TSMCは日本のつくば市にも拠点を新設しリスクを回避するようだ。ただしつくば市に予定しているのは、あくまでも研究開発を目的とした子会社設立で投資額は最大で186億円。高性能な3次元(3D)集積回路の製造技術開発を目指すとのこと。
半導体が世界の趨勢を決める
拙著『「中国製造2025」の衝撃』にも書いたように、中国は2025年までに中国で使用する半導体の70%を中国国産に切り替えようという目標を立てているが、今のところその目標達成は遠のいている。
今や半導体は軍事産業を始めとした全てのハイテク製品に隙間なく使われているので、この半導体製造を米中のどちらが握るかで、世界の趨勢は決まっていく。だからバイデン政権もハイテク産業への投資に重点を置き、「エンドレス・フロンティア法案」(Endless Frontiers Act)なるものを打ち出している。アメリカ国内の技術発展のために5年間で1000億ドルの拠出を求めるものだ。アメリカはかつて西部開拓のようなフロンティア精神で発展してきたが、それを今度はハイテク分野でもエンドレスに続けようという、国家の命運を賭けた「アメリカ半導体産業強化法案」なのである。
4月14日に開かれた公聴会で、シューマー上院院内総務は今後数週間のうちに法案パッケージについて採決を行う意向だと述べたと、ブルームバーグが報じている。
アメリカは半導体設計ではまだ何とか世界をリードしているが、上記のTrendForceの図からも分かるように、半導体製造に関しては他の国に後れを取っている。グローバルファウンドリ(アメリカ)が2016年ころには11%のシェアで頑張っていたが、2018年には後退し、現在は図にある通り7%で、TSMC、サムスンに取って代わられている。インテルも頑張っていたのだがつまずいてしまい、脱落の危機に見舞われた。しかし今年3月24日にインテルはファウンドリとして200億ドルを投資しているという。
バイデンは2兆2500億ドル(約245兆円)規模のインフラ計画の中に半導体製造・研究予算500億ドルを盛り込んだ。この予算を中国への対抗を狙った「エンドレス・フロンティア法案」で具体化していくようだ。
台湾を丸ごと抱き込んだことにより、半導体に関しては現時点でアメリカに軍配が上がっている。
しかし米中覇権競争の分岐点となる日本は、中国経済に頼り切り、日米首脳会談でも「両岸問題」という中国政府の官製用語でしか意思表示をできなかったわけだ。
アメリカが明確に「台湾」に舵を切っているというのに、日本はいったい米中どちらに寄り添っているのかという印象さえ抱く。
本日のこのコラムまでが、日米首脳会談の真相を読み解くための、その背景にある考察である。4月20日のコラム<日米首脳会談・共同声明の「からくり」――中国は本当に「激怒」したのか?>でお約束した「体力的ゆとりがあれば考察を続ける」と自らに課した宿題は、一応ここまでとする。
※当記事はYahoo!ニュース 個人からの転載です。
[執筆者]遠藤 誉
中国問題グローバル研究所所長、筑波大学名誉教授、理学博士
1941年中国生まれ。中国革命戦を経験し1953年に日本帰国。中国問題グローバル研究所所長。筑波大学名誉教授、理学博士。中国社会科学院社会学研究所客員研究員・教授などを歴任。著書に『裏切りと陰謀の中国共産党建党100年秘史 習近平 父を破滅させた鄧小平への復讐』(ビジネス社、3月22日出版)、『ポストコロナの米中覇権とデジタル人民元』、『激突!遠藤vs田原 日中と習近平国賓』、『米中貿易戦争の裏側 東アジアの地殻変動を読み解く』,『「中国製造2025」の衝撃 習近平はいま何を目論んでいるのか』、『毛沢東 日本軍と共謀した男』、『卡子(チャーズ) 中国建国の残火』、『ネット大国中国 言論をめぐる攻防』、『中国がシリコンバレーとつながるとき』など多数。
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