オーウェル的世界よりミャンマーの未来に投資しよう、「人間の尊厳」を原点に
こうした日本政府の対応に、キングストン氏は首をかしげる。「軍事クーデターに反対する抗議行動の規模をみれば、ミャンマーの人びとにとっては国軍こそ、暗黒面であり、民主主義と法の支配、基本的人権にとっての最大の脅威と言っても差し支えない」からだ。それなのに日本の価値観外交は、ミャンマーに関しては普遍的価値に目をつむろうとする。米スタンフォード大学アジア太平洋研究センター研究副主幹のダニエル・スナイダー氏によれば、軍政への制裁と圧力に反対する日本の空疎な詭弁に、バイデン政権は不満を募らせているという。
だが日本政府のこうした姿勢は、いまさら驚くことではなさそうだ。日本はこれまでにもアジアの国々で、誰が権力の座にあろうと意に介さず、その価値観外交になんらかの実質があるのか、それとも単なるブランド戦略なのではないのかという疑問をかきたててきた。タイでもカンボジアでも、手を組む相手が独裁者であり、その国の国民が望まない政権であろうと、日本の経済的利益と地政学的戦略にかなうなら問題ではなかった。「日本政府は民主主義や人権に反対はしないが、それを支持するために自らが何かを犠牲にする危険を冒そうとはしなかった」。クーデター後のミャンマーに対しても、その基本姿勢は例外ではなかった。
クーデターの直前に、国軍と長年にわたり経済的関係と密接な協力をつづけてきた日本ミャンマー協会の渡邊秀央会長が、スーチー国家顧問とミンアウンフライン総司令官をおとずれ、日本のミャンマーへの投資促進を話し合ったのは不思議ではない。氏や多くの日本人は同国への中国の影響がこれ以上強まるのを懸念し、それに対抗するために経済関係の拡大に熱を入れようとした。軍政と日本政府にとって、渡邊氏はうってつけの裏工作のチャンネルだったが、氏がミャンマーにおける民主主義体制への移行を促進しようとしたとか、民主主義の逆戻りを阻止しようとする努力を支持するという形跡はまったくみられない。「日本の経済界はミャンマーをアジアの最も有望なフロンティアと見ていて、そこで金儲けさえできれば、政治状況はどうでもよいのである」。
揺らぐミャンマー人の日本への好感度
それでは、こうした日本外交をミャンマーの人びとはどう見ているだろうか。在日ミャンマー人のナンミャケーカイン京都精華大学特任准教授のアンケート調査結果が、毎日新聞(3月25日デジタル版)で紹介されている。
彼女は民主化運動が全土にひろがった1988年に高校を卒業後来日し、立命館大学で学部、大学院修士、博士課程を修了した。