夢が一変、インド移民労働者が向き合うコロナ帰国の現実
ショッピングモールから石切り場へ
30年前の湾岸戦争や2008年のグローバル金融危機のときも多くの労働者がケララ州に戻らざるをえなかったが、今回はその数がはるかに多く、雇用市場はいっそう厳しくなっている。
帰国者に仕事を紹介する全国規模の取り組みは登録者数も3万人を超えて本格化しているが、政府の発表によれば、その約80%はバーレーン、カタール、サウジアラビア、アラブ首長国連邦、オマーンといった湾岸諸国からの帰国者である。
シャムナ・カーンさん(30)は、右脚がリンパ浮腫のためひどく腫れているが、これまで働く必要に迫られたことはなかった。夫のシャフィールさんがカタールのきらびやかなショッピングモールで働いており、十分な仕送りをしてくれていたからだ。
夫妻は土壁と粘土の家からコンクリートとタイル貼りの家へと引っ越した。バスルームは屋内にあり、脚の悪いシャムナさんのために家事代行も雇った。
だが昨年3月、シャフィールさんが失業して帰国した後、シャムナさんもインドの村落雇用促進制度に登録した。村内での道路建設や農場での井戸・水路の掘削といった作業を、1日300ルピーで最低100日間保証する仕組みだ。
村内のゴム農場で水路の掘削に従事しつつ、シャムナさんは「働いて家計を支えられるのは嬉しいが、私の脚は感染症に弱い」と語る。
石切り場で働く夫のシャフィールさんは生活の不透明な先行きが気がかりだ。ローンの返済はまだ終っていない。シャムナさんの健康状態も不安をぬぐえない。
「この村では他に仕事がない」とシャフィールさんは言う。
情熱と計画
国際連合によれば、インドからの移民労働者の90%以上は湾岸諸国と東南アジアで働いており、そのほとんどが非熟練・半熟練労働者である。
彼らに仕事を紹介するのは人材派遣会社・旅行会社で、労働者と雇用主を結びつけ、渡航のためのフライトを予約する。アジモン・マクさん(45)がケララ州の州都ティルヴァナンタプラムで14年にわたって従事してきた多忙なビジネスだ。
「航空券の手配が私の主な仕事だ。情熱を注いでいたし、いつも忙しかった。だがロックダウンが続く間に、すべてが無に帰してしまった」とマクさんは言う。彼は鮮魚店に転職し、最近になってティルヴァナンタプラムに店を開いた。
銀行業界で働いていたビノジ・クッタパンさん(40)も、昨年、金融サービス企業から解雇されてアブダビから帰国した後、新たな道を切り開いた。大の犬好きであるクッタパンさんは、それをブリーダー業に活かすことに決めたのである。
「パンデミックがなければ、この仕事を始めることもなかっただろう」と言いつつ、クッタパンさんは15万ルピーで仕入れた7匹の犬を見せる。
ペット用品ショップやドッグランの経営、空調付き犬小屋の販売といった計画もあり、クッタパンさんとしては湾岸諸国に戻る予定はない。だが他の労働者は、再び戻れる日を心待ちにしている。
クマールさんは、湾岸諸国での仕事を求めて代理店に電話を始めている。
「将来のための蓄えは尽きてしまい、今のところ、今後の見通しは暗い」とクマールさんは言う。「もう高収入を得ようとは思っていない。その日その日を生き延びることだけを考えている」
(Roli Srivastava記者、Rakesh Nair記者、翻訳:エァクレーレン)

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