最新記事

クーデター

ミャンマー「SNS戦争」、国軍対フェイスブック

Another War for Democracy

2021年3月9日(火)19時45分
海野麻実(ジャーナリスト)

今回のクーデターにおいても、Z世代と呼ばれる若者たちを中心にフェイスブック上での抗議活動が勢いを増している。2021年2月22日には「2」が5つ入るこの日に大規模なゼネストを起こし、「22222運動」として歴史に刻もうと呼び掛ける投稿が瞬く間に拡散。これを受けたデモはクーデター以降最大規模となり、全土にわたって約100万人に及ぶ市民が参加した。

また、治安部隊がデモ抗議に参加していた市民らに発砲して2人が死亡した際も、現場から担架で運ばれる負傷者の姿や、銃撃を受けた直後の被害者の様子を捉えた映像が次々にフェイスブックで拡散された。

一方の軍も、フェイスブックやユーザーの対応に徹底抗戦してきた。クーデター直後には国家の「安定」を保つためとして、フェイスブックの遮断措置を取った。

magw210309-myan02.jpg

弾圧を受けるミャンマー軍 REUTERS

軍はあらゆる手段で抵抗

これに対し、市民が次々とバーチャル・プライベートネットワーク(VPN)を経由してフェイスブックに「復帰」して抗議の声を拡散し続けると、軍は「インターネットに関する当局の管理権限を強化する新法案」の策定に動いた。要はインターネットを規制する巨大な権限を軍に付与するという内容で、利用者の個人情報を提供する義務も含まれるとされる。

言論の自由が侵害されるとの懸念を募らせた市民は即座に反応。法案の草案もまた、フェイスブック上で拡散された。さらにフェイスブックやグーグルなどが加盟するアジアインターネット連盟は2月11日、「国軍指導者に市民を検閲し、プライバシーを侵害する前例のない権力を与えることになる」との懸念を表明した。Z世代をはじめ、軍への非難が国内外で高まりを見せている。

それでも国軍の暴走は止まらず、次々と狡猾な手段を使い市民に恐怖を植え付けている。例えば2月12日には、突如として2万3000人以上の服役囚らを釈放すると発表、実行に移した。市民の間では恐怖から疑心暗鬼が生まれ、夜中に彼らが民家に放火する、子供を誘拐するなど、真偽の定かでない情報がフェイスブック上で多数拡散され始めた。軍は自ら投稿せずとも、市民を通じて恐怖の拡散に成功したわけだ。

ヤンゴン出身のある女性はこう話す。「この手法は1988年のクーデター以降、軍の常套手段。市民の連帯を破壊しようと企んでいる。複数のショッピングモールなどが軍に攻撃されるだろうという噂も流れた」

検証されないままの写真や映像はさらに蔓延し、「服役囚が覚醒剤を打たれて解放され、暴動をそそのかされている」「服役囚が貯水タンクに毒を混入しようとしている」などの噂も広がるなど、軍発信とみられる投稿はその攻撃の手を緩めなかった。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米国株式市場=S&P・ナスダック上昇、トランプ関税

ワールド

USTR、一部の国に対する一律関税案策定 20%下

ビジネス

米自動車販売、第1四半期は増加 トランプ関税控えS

ビジネス

NY外為市場=円が上昇、米「相互関税」への警戒で安
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:引きこもるアメリカ
特集:引きこもるアメリカ
2025年4月 8日号(4/ 1発売)

トランプ外交で見捨てられ、ロシアの攻撃リスクにさらされるヨーロッパは日本にとって他人事なのか?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大はしゃぎ」する人に共通する点とは?
  • 2
    8日の予定が286日間に...「長すぎた宇宙旅行」から2人無事帰還
  • 3
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 4
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
  • 5
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「…
  • 6
    磯遊びでは「注意が必要」...6歳の少年が「思わぬ生…
  • 7
    「隠れたブラックホール」を見つける新手法、天文学…
  • 8
    【クイズ】アメリカの若者が「人生に求めるもの」ラ…
  • 9
    【クイズ】2025年に最も多くのお金を失った「億万長…
  • 10
    トランプが再定義するアメリカの役割...米中ロ「三極…
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 2
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「最大の戦果」...巡航ミサイル96発を破壊
  • 3
    800年前のペルーのミイラに刻まれた精緻すぎるタトゥーが解明される...「現代技術では不可能」
  • 4
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者…
  • 5
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 6
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 7
    一体なぜ、子供の遺骨に「肉を削がれた痕」が?...中…
  • 8
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 9
    「この巨大な線は何の影?」飛行機の窓から撮影され…
  • 10
    現地人は下層労働者、給料も7分の1以下...友好国ニジ…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 3
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛ばす」理由とは?
  • 4
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山…
  • 5
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 6
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 7
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 8
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦してい…
  • 9
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中