ミャンマー「SNS戦争」、国軍対フェイスブック
Another War for Democracy
さらに、軍関係者とみられる人物が別のソーシャルメディアを介する形でフェイスブックの警戒網をくぐり抜け、ヘイト投稿を続けている。
例えば、先ごろ急速に拡散された投稿がある。軍隊のメンバー、または軍隊に傾倒しているとおぼしき過激化した若い男性がスマートフォンで自撮りした映像で、鋭い表情を見せながらこう語った。「今夜11時にパトロールに出る。アウンサンスーチーを支援する全てのマザーファッカーを撃ち抜き殺してやる」
実は、こうした映像は若者に人気の動画共有アプリ、TikTokが最初の発信源となっている。軍関係者は新たなソーシャルメディアも使いこなし、そこから発信された映像をフェイスブックにも流し込んで拡散しているのだ。
恐怖をあおるばかりではない。時には軍こそが被害者であるかのような投稿もされている。例えば、軍が運営する病院では「今日も大勢の患者の診療が無事終わった」などとして、軍服姿の男性に感謝している患者の写真や、「テロリスト」らに攻撃されけがをした警察官の写真がアップされている。「テロリスト」とはデモ参加者のことで、負傷した警察官が病院のベッドで軍人にケアされているというわけだ。あからさまなヘイト投稿ではないものの、軍に痛めつけられている市民からすれば看過できない「ニュース」だろう。
ヘイト検出「99%」だが
軍のプロパガンダやヘイト、或いは恐怖をあおる投稿と対峙するフェイスブックは、その対応実績に胸を張ってきた。彼らは昨年11月の総選挙以降からヘイトスピーチなどの削減に取り組んでいるが、その際にヘイトを含むコンテンツ35万件に対処し、その99%は人目に触れる前に検出して削除したという。昨年の第2四半期にもヘイト規定を侵害した28万件のコンテンツを削除したが、フェイスブックに通報が寄せられる前の段階で、97.8%を先んじて検出したと誇る。
確かに同年の第1四半期には83%であったことから、数字上は検出の精度は確実に上がっている。だが現実を見れば、軍やその信奉者とみられる人々は手を替え品を替え、民主主義を求める国民に対する攻撃を繰り広げている。「検出率99%」は、どこかむなしく響く。
フェイスブックは、ヘイトスピーチや憎悪や暴力を扇動するコンテンツに対して人工知能(AI)を駆使して対応に当たっている。だが、各国で異なる複雑な歴史的背景や政治的文脈が存在するなか、ローカル言語による書き込みのニュアンスをAIはどのレベルまで捉え切れているのだろうか。そこには限界もあるのではないか。
もっとも、フェイスブックが対応に躍起になるのはミャンマー国民の正義や民主主義のためだけではなかろう。国際社会はこのところ、ヘイト投稿の取り締まりが甘いとしてフェイスブックに厳しい視線を向けている。