バイデン政権も「中国への強硬姿勢は正しい」と、脱中国に挑む
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多くの企業は、中国におけるサプライチェーンの構築に何年も費やしており、それを放棄することにはかなりの抵抗感がある。匿名で取材に応じた通信業界のある幹部は、「これらの中国製部品や機器がアメリカの企業にどこまで浸透しているかを十分に理解できるほど事態を観察していた人はいない」とぼやく。
多国籍企業の間には、民主党政権による路線修正に期待する向きもあるが、それは甘い。バイデンは2月24日に、半導体や高性能充電池などを含む基幹産業におけるサプライチェーンの見直しを求める大統領令に署名している。その発表に当たり、日本や韓国と足並みをそろえ、調達先を中国以外の国へ移すよう関連企業を説得すると述べている。
中国からのデカップリングに関して、トランプ政権が同盟国に協力を求めたことはない。だがバイデン政権が協力を求めれば、日韓両国の政府は応じる。しかし両国の産業界が応じる保証はない。両国経済はアメリカ以上に、中国市場と密接に絡み合っているからだ。米企業の撤退は外国のライバル企業を利するだけだとの指摘もある。しかし少なくとも今のところ、バイデン政権が米企業への圧力を緩める兆しはない。
トランプが課した2500億ドル相当の中国製品に対する追加関税も、当面は維持される。トランプは20年1月に中国政府と包括的な貿易協定の第1段階に合意し、中国が米国産品の輸入を増やすという条件で、関税引き下げか撤廃を約束した。あれから1年、アメリカの対中輸出が目立って増えた証拠はない。バイデン政権は中国に合意を遵守させる方法を検討中で、関税の撤廃は議題にも上らない。「何の見返りもなしで関税撤廃はできない」と、前出のNSC高官は言っていた。
もう1つ、バイデン政権の中国政策で死活的に重要なのは国防・安全保障政策の見直しだが、現時点で目新しい展開はない。
軍人出身のロイド・オースティン国防長官は、バイデン政権も前政権と同様に、中国をアメリカにとって軍事的・地政学的に最大の脅威と見なす方向だと語っている。中国はアメリカを西太平洋から追い出し、南シナ海を実力で支配しようとしているという前政権の見方を、バイデン政権も共有しているようだ。
中国軍による台湾侵攻を未然に防ぐため、この地域に十分な戦闘力と人員を配置しておくこともアメリカ政府の既定方針だ。匿名を条件に取材に応じたホワイトハウスのある関係者も、先日バイデンが中国の習近平(シー・チンピン)国家主席と2時間にわたる電話会談を行った際、「台湾問題にかなりの時間を費やしており、台湾が本当の火種であることを大統領はよく理解している」と述べている。
そうであれば、アジア太平洋地域に配置する兵力を増やさねばならないし、中国の軍事力に対抗する技術(極超音速ミサイルを撃ち落とす防衛システムなど)への投資も増やす必要がある。トランプはその両方を議会に求めたが、実際にはどちらも実現しなかった。