王毅中東歴訪の狙いは「エネルギー安全保障」と「ドル基軸崩し」
中国のネットにはイラン情報として「人民元取引と相手国通貨との取引」という情報が溢れている。たとえばこの記事やこちらの記事にあるイラストなどをご覧いただくと分かりやすいだろう。「美元」は「米ドル」のことである。イランの具体的な情報源は書かれてないので、中国側がストレートには言えないがイラン情報として流しているのかもしれない。逆に中国の本音が見えると言っていいだろう。
イランが、アメリカのGPSを使わず中国の「北斗」ナビゲーション・システムを使うという情報も多い。
アメリカが制裁対象国を増やせば増やすほど、「米ドル基軸破壊」と「人民元の国際化」が進んでいくという皮肉な結果が待っている。石油取引がドル建てではなくなる日が近づいたということになろうか。
サウジテレムコとは50年間の契約:社債は人民元
サウジアラビアの場合は、もっと露骨だ。
国営石油会社サウジアラムコのナセル最高経営責任者(CEO)は今年3月21日、今後50年間以上にわたり、中国のエネルギー安全保障を確保することが最優先事項であり続けるとの認識を示した。昨年11月には「将来的に中国人民元建ての社債発行の可能性がある」とさえ表明している。世界最大の原油輸出国サウジアラビアが、世界最大の原油輸入国である中国の人民元建ての社債を発行することになれば、米ドルの覇権を脅かす可能性を秘めている。しかもこの関係が50年間も続くとなれば世界の金融界に与える影響は尋常ではないだろう。
化石燃料を減らして脱炭素社会に向かっている国際社会の現状から見れば、「今さら石油?」と思われる方もおられるかもしれないが、石油は燃料として使うだけでなく、さまざまな化学工業の原材料でもあるので、中国での需要は大きい。脱炭素には時間もかかる。だから両者は、従来型のエネルギーと並行して、再生可能エネルギーの開発にも当たるとしている。
今やサウジアラビアは中国への原油供給で世界1位だ。2位のロシアとの差は僅差であるものの、ロシアがどう受け止めているか気になったので、「モスクワの友人」に尋ねたところ、「むしろサウジが、陸続きで近い距離にあるロシアに追い越されないかと気にしているのではないか」という回答があり、「来年にはロシアが1位になる可能性が高い」という情報も教えてくれた。となると、サウジはもっと頑張って中国に気に入られようとするだろう。
アメリカがシェール革命で中東を必要としなくなっている間に、中国は凄まじい勢いで中東に食い込んでいる。それでもトランプ前大統領はサウジとのつながりを重視したのだが、サウジ人記者カショギ氏の殺害事件でムハンマド皇太子の立場が弱くなり、アメリカとの関係がギクシャクしていた。そこへバイデン大統領がカショギ氏暗殺に関して「人権外交」を前面に打ち出し、「ムハンマド皇太子が殺害を承認していた」とする米情報機関の報告書の公表に踏み切った。報告書では「皇太子がサウジの治安と情報機関を完全に支配しており、同国当局者が皇太子の承認なしにこの種の作戦を実行することはほとんどあり得ない」と断じて、事件に関与した元高官らに追加制裁を科し、76人への査証発給制限を発表した。