最新記事

陰謀論

「ビル・ゲイツが太陽光を遮って人口を減らそうとしている」は本当か?

Is Bill Gates Trying to Block the Sun?

2021年3月4日(木)18時03分
ジェーソン・マードック
ビル・ゲイツ

大富豪のゲイツにはデマがつきまとう Jason Lee Machado-REUTERS

<もちろんそんなことはゲイツにも不可能だが、デマのもとになった研究は実在する。それは成層圏に塵を散布して気温を下げることを目標とするものだ>

マイクロソフトの共同創業者ビル・ゲイツが陰謀論の標的になるのは今に始まったことではない。経営の一線から退いた今は慈善活動に注力するゲイツだが、彼自身も彼が支援するプロジェクトの関係者も荒唐無稽なデマや中傷に悩まされてきた。

このところネット上で騒がれているプロジェクトは、ハーバード大学の研究チームが進めている「成層圏制御摂動実験」(SCoPEx)だ。

これは太陽地球工学、あるいは太陽放射管理とも呼ばれる分野の研究で、そのベースにあるのは人為的に気候を制御し、地球温暖化の進行を止めようというアイデアだ。大規模な火山の噴火で太陽光が遮られると気温が低下するように、成層圏に粒子を散布して、太陽光の一部を宇宙に反射し、熱くなりすぎた地球を冷却させよう、というのである。

ツイッターでは、ゲイツは「太陽を遮って」多くの人間を餓死させ、地球の人口を減らすために、この研究を支援しているといったデマが飛び交っている。

例えば3月1日にはこんな投稿が広くリツイートされた。「ゲイツは太陽を遮る気だ。作物も育たず、食べ物もなくなる。植物もなくなり、全て死に絶える。彼を止めろ」

太陽を隠すなんて無理

こうした投稿が拡散されるようになったのは、今年2月半ば、テキサス州が記録的な大寒波に見舞われた頃からだが、その後もデマは一向に収まらない。

事実はどうなのか。ファクトチェック専門のサイト「スノープス」によれば、こうした陰謀論が出てきた背景には、一部のメディアがSCoPExの中身をよく知らないまま、実験の規模や目的をセンセーショナルに報道したことがある。

保守派のニュースサイト「ウエスタン・ジャーナル」は昨年12月、ゲイツが「世界の気温を下げるために太陽を覆い隠す」プロジェクトを計画していると伝えた。これはハーバード大のSCoPExチームが2021年6月に気球を飛ばし、実験を行うというロイターの報道を基にした記事だが、計画を主導するのはゲイツではないし、SCoPExの実験は「太陽を覆い隠す」などという大それたものではない。

英タブロイド紙デイリー・メールは2019年8月、ゲイツは「地球温暖化を止めるために、成層圏に膨大な量の砂埃を散布したがっている」と報じた。

ゲイツが主体というのは誤報だが、成層圏にダストを散布するというのは、あながち嘘ではない。2018年のネイチャーの記事が解説しているように、SCoPExはおおまかに言えば、成層圏に粒子を散布し、太陽光を反射させて、気温を低下させるという構想に向けた実験だ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

ドイツ政府、今年の経済成長予測をゼロに下方修正=関

ワールド

ガソリン10円引き下げ、夏場に電気・ガス代補助 石

ワールド

イスラエル、ガザ攻撃強化 封鎖でポリオ予防接種停止

ワールド

イスラエル、ベイルート南部空爆 スンニ派武装組織の
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
2025年4月29日号(4/22発売)

タイ・ミャンマーでの大摘発を経て焦点はカンボジアへ。政府と癒着した犯罪の巣窟に日本人の影

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「スケールが違う」天の川にそっくりな銀河、宇宙初期に発見される
  • 2
    【クイズ】「地球の肺」と呼ばれる場所はどこ?
  • 3
    女性職員を毎日「ランチに誘う」...90歳の男性ボランティアが、職員たちにもたらした「学び」
  • 4
    自宅の天井から「謎の物体」が...「これは何?」と投…
  • 5
    遺物「青いコーラン」から未解明の文字を発見...ペー…
  • 6
    パウエルFRB議長解任までやったとしてもトランプの「…
  • 7
    「生はちみつ」と「純粋はちみつ」は何が違うのか?.…
  • 8
    「アメリカ湾」の次は...中国が激怒、Googleの「西フ…
  • 9
    なぜ? ケイティ・ペリーらの宇宙旅行に「でっち上…
  • 10
    コロナ「武漢研究所説」強調する米政府の新サイト立…
  • 1
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ? 1位は意外にも...!?
  • 2
    「生はちみつ」と「純粋はちみつ」は何が違うのか?...「偽スーパーフード」に専門家が警鐘
  • 3
    しゃがんだ瞬間...「えっ全部見えてる?」ジムで遭遇した「透けレギンス」投稿にネット騒然
  • 4
    パニック発作の原因とは何か?...「あなたは病気では…
  • 5
    あなたには「この印」ある? 特定の世代は「腕に同じ…
  • 6
    【渡航注意】今のアメリカでうっかり捕まれば、裁判…
  • 7
    女性職員を毎日「ランチに誘う」...90歳の男性ボラン…
  • 8
    【クイズ】売上高が世界1位の「半導体ベンダー」はど…
  • 9
    「100歳まで食・酒を楽しもう」肝機能が復活! 脂肪…
  • 10
    自宅の天井から「謎の物体」が...「これは何?」と投…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山ダムから有毒の水が流出...惨状伝える映像
  • 3
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった...糖尿病を予防し、がんと闘う効果にも期待が
  • 4
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
  • 5
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 6
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 7
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 8
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 9
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 10
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中