「ビル・ゲイツが太陽光を遮って人口を減らそうとしている」は本当か?
Is Bill Gates Trying to Block the Sun?
大富豪のゲイツにはデマがつきまとう Jason Lee Machado-REUTERS
<もちろんそんなことはゲイツにも不可能だが、デマのもとになった研究は実在する。それは成層圏に塵を散布して気温を下げることを目標とするものだ>
マイクロソフトの共同創業者ビル・ゲイツが陰謀論の標的になるのは今に始まったことではない。経営の一線から退いた今は慈善活動に注力するゲイツだが、彼自身も彼が支援するプロジェクトの関係者も荒唐無稽なデマや中傷に悩まされてきた。
このところネット上で騒がれているプロジェクトは、ハーバード大学の研究チームが進めている「成層圏制御摂動実験」(SCoPEx)だ。
これは太陽地球工学、あるいは太陽放射管理とも呼ばれる分野の研究で、そのベースにあるのは人為的に気候を制御し、地球温暖化の進行を止めようというアイデアだ。大規模な火山の噴火で太陽光が遮られると気温が低下するように、成層圏に粒子を散布して、太陽光の一部を宇宙に反射し、熱くなりすぎた地球を冷却させよう、というのである。
ツイッターでは、ゲイツは「太陽を遮って」多くの人間を餓死させ、地球の人口を減らすために、この研究を支援しているといったデマが飛び交っている。
例えば3月1日にはこんな投稿が広くリツイートされた。「ゲイツは太陽を遮る気だ。作物も育たず、食べ物もなくなる。植物もなくなり、全て死に絶える。彼を止めろ」
太陽を隠すなんて無理
こうした投稿が拡散されるようになったのは、今年2月半ば、テキサス州が記録的な大寒波に見舞われた頃からだが、その後もデマは一向に収まらない。
事実はどうなのか。ファクトチェック専門のサイト「スノープス」によれば、こうした陰謀論が出てきた背景には、一部のメディアがSCoPExの中身をよく知らないまま、実験の規模や目的をセンセーショナルに報道したことがある。
保守派のニュースサイト「ウエスタン・ジャーナル」は昨年12月、ゲイツが「世界の気温を下げるために太陽を覆い隠す」プロジェクトを計画していると伝えた。これはハーバード大のSCoPExチームが2021年6月に気球を飛ばし、実験を行うというロイターの報道を基にした記事だが、計画を主導するのはゲイツではないし、SCoPExの実験は「太陽を覆い隠す」などという大それたものではない。
英タブロイド紙デイリー・メールは2019年8月、ゲイツは「地球温暖化を止めるために、成層圏に膨大な量の砂埃を散布したがっている」と報じた。
ゲイツが主体というのは誤報だが、成層圏にダストを散布するというのは、あながち嘘ではない。2018年のネイチャーの記事が解説しているように、SCoPExはおおまかに言えば、成層圏に粒子を散布し、太陽光を反射させて、気温を低下させるという構想に向けた実験だ。