最新記事

陰謀論

「ビル・ゲイツが太陽光を遮って人口を減らそうとしている」は本当か?

Is Bill Gates Trying to Block the Sun?

2021年3月4日(木)18時03分
ジェーソン・マードック

ただ、SCoPExの公式サイトを見ればわかるように、今のところプロジェクトの規模はごく限られている。成層圏で散布した化学物質がどういう反応を起こすか、これまではシミュレーション実験で検証してきたが、今年6月の気球打ち上げでリアルなデータを得たいと研究チームは考えている。

「これは太陽地球工学そのもののテストではない」と、チームは説明している。「成層圏で、粒子同士、粒子と太陽放射、粒子と(地表からの)赤外線放射がどう相互作用を起こすかを観察するためのテストだ。こうした相互作用がより詳しく解明されれば、実用化に向けた問いに答えを出せるだろう。例えば、ほかの物理的なリスクを増やさずに、オゾン量の減少を抑制もしくは完全に防げるようなエアロゾルを見つけることは可能か、といった問いだ」

今回のテストでは、高度約20キロの成層圏内に気球を打ち上げ、炭酸カルシウムを散布する予定だ。成層圏で100グラムから2キロ程度の少量の炭酸カルシウムを放出し、幅100メートル、長さ1キロ程の雲をつくる。大気の化学的状態などがどう変化するか、気球に設置した観測装置で測定する。

最終的な目標は、エアロゾルが成層圏の化学的な状態をどう変えるかを検証することだ。チームはこのデータを基に、シミュレーションモデルの精度を高め、大規模な散布の効果を予測しようとしている。粒子の散布には気温低下に加え、オゾン層を回復させる効果もあると、チームは期待しているが、逆にオゾン層を破壊する可能性もあり、そのほかの予期せぬリスクについても慎重に検証を重ねる必要がある。

「今回のテストは人体にも環境にもこれといった危険を及ぼさない」と、チームは述べている。「炭酸カルシウムは自然界に広く存在する無害な化学物質にすぎない」

研究資金を寄付しただけ

気球はスウェーデン宇宙公社の協力を得て、同国北部の都市キルナ近郊から打ち上げられる。1回目は気球の打ち上げと地上との通信のテストをするだけで、炭酸カルシウムの放出は2回目の打ち上げで行う。

ゲイツはこの研究の内容には全く関与していない。

ゲイツはハーバード大学の太陽地球工学研究プログラムに寄付をしている多くの慈善家の1人にすぎず、このプログラムからSCoPExに助成金が下りているだけだ。

またゲイツが2007年に設立に加わった気候変動とエネルギー関連の研究支援財団もSCoPExに助成金を出している。

ハーバード大学は公式サイトで、研究助成金はビル・ゲイツ個人の財団からの寄付で、ビル・アンド・メリンダ・ゲイツ財団の活動とは何ら関係がないと断っている。

詰まるところ、ゲイツは太陽地球工学の研究資金を寄付し(寄付額は非公表)、その一部がSCoPExに充てられただけで、ゲイツが太陽光をブロックしたがっているというのは全くの作り話なのだ。

ハーバードチームは、シミュレーションモデルの精度を上げるために少量の炭酸カルシウムを散布してデータを収集しようとしているだけで、太陽光を宇宙に反射するなどという大規模な試みは、たとえ現実にやるとしても、まだまだ先の話。今はその可能性を探るために、ささやかな実験をする段階にすぎない。

20250121issue_cover150.png
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2025年1月21日号(1月15日発売)は「トランプ新政権ガイド」特集。1月20日の就任式を目前に「爆弾」を連続投下。トランプ新政権の外交・内政と日本経済への影響を読む


※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

アングル:もう賄賂は払わない、アサド政権崩壊で夢と

ワールド

アングル:政治的権利に目覚めるアフリカの若者、デジ

ワールド

尹大統領の逮捕状発付、韓国地裁 本格捜査へ

ワールド

アングル:フィリピンの「ごみゼロ」宣言、達成は非正
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプ新政権ガイド
特集:トランプ新政権ガイド
2025年1月21日号(1/15発売)

1月20日の就任式を目前に「爆弾」を連続投下。トランプ新政権の外交・内政と日本経済への影響は?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼いでいるプロゲーマーが語る「eスポーツのリアル」
  • 2
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べている」のは、どの地域に住む人?
  • 3
    「搭乗券を見せてください」飛行機に侵入した「まさかの密航者」をCAが撮影...追い出すまでの攻防にSNS爆笑
  • 4
    感染症に強い食事法とは?...食物繊維と腸の関係が明…
  • 5
    女性クリエイター「1日に100人と寝る」チャレンジが…
  • 6
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 7
    フランス、ドイツ、韓国、イギリス......世界の政治…
  • 8
    失礼すぎる!「1人ディズニー」を楽しむ男性に、女性…
  • 9
    オレンジの閃光が夜空一面を照らす瞬間...ロシア西部…
  • 10
    本当に残念...『イカゲーム』シーズン2に「出てこな…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 3
    睡眠時間60分の差で、脳の老化速度は2倍! カギは「最初の90分」...快眠の「7つのコツ」とは?
  • 4
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼い…
  • 5
    メーガン妃のNetflix新番組「ウィズ・ラブ、メーガン…
  • 6
    轟音に次ぐ轟音...ロシア国内の化学工場を夜間に襲う…
  • 7
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べて…
  • 8
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 9
    ドラマ「海に眠るダイヤモンド」で再注目...軍艦島の…
  • 10
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    大腸がんの原因になる食品とは?...がん治療に革命をもたらす可能性も【最新研究】
  • 3
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 4
    夜空を切り裂いた「爆発の閃光」...「ロシア北方艦隊…
  • 5
    インスタント食品が招く「静かな健康危機」...研究が…
  • 6
    TBS日曜劇場が描かなかった坑夫生活...東京ドーム1.3…
  • 7
    「涙止まらん...」トリミングの結果、何の動物か分か…
  • 8
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 9
    「戦死証明書」を渡され...ロシアで戦死した北朝鮮兵…
  • 10
    「腹の底から笑った!」ママの「アダルト」なクリス…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中