最新記事

陰謀論

陰謀論の次の標的は5G「コロナ禍の元凶は電磁波」

BEWARE THE COPYCATS

2021年2月5日(金)15時30分
ウィリアム・アーキン(ジャーナリスト、元陸軍情報分析官)

感染抑制のための規制に抗議する反5G派(昨年11月、ベルリン) MAJA HITIJ/GETTY IMAGES

<5G通信網が人体に害を及ぼすという偽情報がソーシャルメディア上に蔓延し、米情報・治安当局は基地局破壊などのテロを警戒>

きっかけは米南部テネシー州ナッシュビルの中心部で昨年のクリスマスに起きた爆発事件だ。現場は通信大手AT&Tの建物の前。そこに止められていたキャンピングカーが早朝に爆発し、建物の一部が損壊して通信システムが一時ダウンするなど混乱が広がった。

現場には車に乗っていたとみられる男の遺体の一部が散乱していた。そこから男の身元が判明。警察はこの男アンソニー・ワーナーが単独で行った自爆テロとみている。動機は不明だが、第5世代(5G)通信網が人体に害を及ぼすという陰謀論を信じて破壊工作を行った疑いが持たれている。

問題は、事件がこれだけでは終わらないことだ。本誌が独自に入手した米情報・治安当局の内部文書は、全米各地で5G通信網を狙った同様の攻撃が続出する可能性を指摘し、警戒強化を指示している。

米情報当局は以前から陰謀論の信奉者が重要なインフラを攻撃する可能性に神経をとがらせていた。新型コロナウイルス感染者の隔離施設周辺の送電網、医療施設、政府機関の建物、5Gの基地局などが標的になる恐れがある。

5G陰謀論がじわじわ広がり始めたのは、通信各社が全米で5Gインフラの整備に着手し始めた2016年頃から。ソーシャルメディアには5Gに関する偽情報があふれ、今やその影響力は新型コロナウイルス絡みの陰謀論に引けを取らない。

国土安全保障省の複数の報告書を見ると、治安当局は昨年初めから重要施設を標的とする「国産テロ」の最大の元凶として5G陰謀論に注目していたようだ。

先に被害が多発したのはヨーロッパだった。イギリスとオランダでは昨年4月までに反5G絡みとみられる攻撃が200件近く発生。この2国で昨年前半に基地局を狙った攻撃は80件を超え、通信インフラへの放火や作業員への嫌がらせも100件以上あった。

「イスラム国」も便乗か

アメリカでは特にテネシー州が反5G活動の温床になっている。ナッシュビルの爆破でFBIがすぐに反5G絡みを疑ったのもそのためだ。FBIの報告書によると、同州メンフィス地域では2019年12月4日に複数の通信用鉄塔が放火され、推定12万ドルの損害が発生。アメリカで5G関連施設が物理的攻撃を受けたのはこれが初めてだ。その後、昨年2月17日までに同州ではさらに4本の鉄塔が破壊され、3、4月にも放火の疑いがある数件の火災が起きた。

陰謀論は5Gが人体に及ぼす害をどう説いているのか。「5Gの電磁波がDNAの化学的結合を切り離すことで免疫系の働きが阻害され、病原体の侵入に伴い細胞から活性酸素が放出される」などと一見もっともらしい非科学的な説明がなされていると、ニューヨーク市消防局は昨年4月に発表している。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

米農務長官にロリンズ氏、保守系シンクタンク所長

ワールド

COP29、年3000億ドルの途上国支援で合意 不

ワールド

アングル:またトランプ氏を過小評価、米世論調査の解

ワールド

アングル:南米の環境保護、アマゾンに集中 砂漠や草
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:超解説 トランプ2.0
特集:超解説 トランプ2.0
2024年11月26日号(11/19発売)

電光石火の閣僚人事で世界に先制パンチ。第2次トランプ政権で次に起きること

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 2
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 3
    「このまま全員死ぬんだ...」巨大な部品が外されたまま飛行機が離陸体勢に...窓から女性が撮影した映像にネット震撼
  • 4
    北朝鮮は、ロシアに派遣した兵士の「生還を望んでい…
  • 5
    「ダイエット成功」3つの戦略...「食事内容」ではな…
  • 6
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対す…
  • 7
    ロシア西部「弾薬庫」への攻撃で起きたのは、戦争が…
  • 8
    クルスク州のロシア軍司令部をウクライナがミサイル…
  • 9
    「何も見えない」...大雨の日に飛行機を着陸させる「…
  • 10
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 3
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査を受けたら...衝撃的な結果に「謎が解けた」
  • 4
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋…
  • 5
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 6
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対す…
  • 7
    北朝鮮は、ロシアに派遣した兵士の「生還を望んでい…
  • 8
    Netflix「打ち切り病」の闇...効率が命、ファンの熱…
  • 9
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 10
    メーガン妃が「輝きを失った瞬間」が話題に...その時…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 4
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大き…
  • 5
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 6
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 7
    北朝鮮兵が味方のロシア兵に発砲して2人死亡!? ウク…
  • 8
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋…
  • 9
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 10
    足跡が見つかることさえ珍しい...「超希少」だが「大…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中