東京五輪、沈黙するスポンサー企業 中止観測広がり苦しい立場に
中止や延期の不安にさいなまれながら、東京五輪・パラリンピックのスポンサー企業は半年後に迫る開会式をじっと待っている。写真は都内に設置された五輪のロゴ。22日撮影(2021年 ロイター/Kim Kyung-Hoon)
中止や延期の不安にさいなまれながら、東京五輪・パラリンピックのスポンサー企業は半年後に迫る開会式をじっと待っている。五輪を全面に打ち出した宣伝活動は再開できず、スタートまで2カ月を切った聖火リレーは、感染対策を講じた新たな形式を主催者側からまだ伝えられておらず、当初計画のまま準備せざるを得ずにいる。
国家的プロジェクトを支える使命感を背負う一方で、今夏の開催に反対する世論は高まり、スポンサー企業は苦しい立場に置かれている。
割り当てが決まらない接待用チケット
「口が裂けても中止、延期という言葉は出せない雰囲気だった」──。スポンサー企業の関係者は、先ごろ開いた東京五輪の組織委員会との打ち合わせの様子をこう説明する。
東京五輪の国内スポンサー企業は68社、昨年7月の開催に向けて契約額は過去最高の約3300億円に上った。それが1年延期されたことに伴い、自社製品の提供を含めて総額220億円相当の追加拠出を求められ、昨年12月に全社が契約を更新。総額は3500億円を超えた。
しかし、新型コロナウイルスの感染拡大が世界的に続く中、今年7月の開催に再び不透明感が強まっている。本来予定していた昨年7月の延期が決まって以降、五輪開催に向けた国内の機運は後退しつつあった。今年に入ると緊急事態宣言が再び発令され、国内メディアの世論調査によると、8割が大会の延期あるいは中止を求めている。
国際オリンピック委員会(IOC)や日本政府、東京都など主催関係機関は予定通り7月の開催を強調するものの、五輪に携わるスポンサー企業の関係者の間では不安が広がっている。ゴールドパートナ―のキヤノンの田中稔三最高財務責任者(CFO)は28日の決算会見で、開催されれば従来の五輪と同様、販促活動に活用するための計画を組んでいると説明。一方で、「万が一、もしうまく開催できないことも含め、その対応はいま会社で考えている」と語った。
東京五輪の組織委員会はロイターの取材に対し、日本政府や東京都、各自治体の感染対策により、状況は改善していくと期待していると電子メールで回答。「早く通常の生活に戻ることを期待している。今夏の安全で安心な大会の開催に向け、関係機関と緊密に協力を続ける」とした。スポンサー企業の宣伝活動が変化しつつあるという関係者の証言については、「すべての関係者から全面的な支援を受けている」と答えた。
宣伝自粛の影に消費者の目
ロイターはこのほど、スポンサーを含めた五輪関係者24人に取材。少なくとも11人は、緊急事態宣言が延長された場合に、世論がさらに後ろ向きになる恐れがあると懸念を示した。
「われわれが中止や遅延という言葉を口にすることすらはばかられる」と、前出の関係者は言う。「(組織委に)中止や延期になった場合、われわれの拠出金はどうなるのか、と尋ねることすらできなかった」と、組織委との会合の空気を振り返る。