東京五輪、沈黙するスポンサー企業 中止観測広がり苦しい立場に
協賛したスポンサー企業は本来、大会のロゴやキャラクターなどを使って広告・宣伝活動を大々的に展開することができる。複数の関係者によると、昨年末の時点まで、スポンサー企業はいったん延期になった開催機運を盛り上げようと宣伝活動の再開を検討していたという。
だが、年明けに2回目の緊急事態宣言が出た後は「トーンダウンした」と、関係者の1人は話す。ロイターが取材したスポンサー企業のうち、6社は五輪を活用した宣伝活動を自粛あるいは延期していると答えた。コロナ禍で開催に慎重な世論が広がる中で、開催をイメージした前向きなテレビCMを流せば、消費者から「不謹慎」と指摘されかねないためだ。
アサヒグループホールディングスの関係者によると、同社は昨夏の大会延期後、開催に向けた詳細が明確になるのを待つため、予定していた広告・宣伝の一部計画を先延ばしした。ゴールドパートナ―であることを伝える映像は、今もテレビCMで使っている。同社広報はロイターに対し、大会の先延ばしが決まって以降、一部広告を延期したことを認めた。
競技のチケットを確保し、顧客を招待・接待できることもスポンサー企業になる利点だが、中止あるいは無観客開催になればそのメリットも失われる。「観客を入れるのか入れないのかなど、全然決まっていない。それが決まらないとチケットの販売、スポンサーに対する割り当てについても決まらないから、企業側は怒ってると思う」と、大会関係者の1人は言う。
聖火リレー、淡々と準備
企業は3月25日に始まる聖火リレーの行方にも気をもんでいる。10年前に発生した東日本大震災からの「復興」を世界にアピールする東京五輪の聖火リレーは、福島県を出発し、121日間かけて全国を回る。聖火リレーの協賛企業は大会そのもののスポンサーとは別で、沿道で自社のサンプル品を配布したり、運営に必要な機材を提供したりするなど運営に協力する。
しかし、コロナの拡大に歯止めがかからない中で、感染対策は必須。当初計画通りのコースを走るのか、沿道の観衆はどうするのか、新たな実施形態について、まだ詳細を聞かされていないという。「昨年開催するはずだった計画を前提にして淡々と準備を進めている」と、協賛企業の関係者は言う。
閑散とした沿道をランナーが1人で走る可能性もあることから、その映像をそのまま流しても「絵にならない」と懸念する関係者もいる。「どういう形で聖火リレーを報道してもらうか考えなくては、という話が出ている」と、同関係者は話す。
準備を進める組織委はロイターの問い合わせに対し、「聖火リレーの感染対策は検討中」と回答。予定通り3月25日に実施するとした。
2020年の夏季大会が東京に決まってから8年。長野県で開いた冬季大会以来となる日本での五輪開催に向け、スポンサー企業も国が威信をかけたプロジェクトの準備を支えてきた。コロナの感染拡大で1年延期が決まった後も、異動せずに五輪担当を続けている社員は多い。
「まさかもう1年いるとは思わなかった」と話す関係者の1人は、自らをベトナム戦争を戦った米兵に例える。「日本のためだと思って一生懸命毎日仕事をしているが、国民からは、お前ら間違っていると言われているように感じる」
*12段落目のアサヒグループホールディングスに関する記述を訂正します。同社が、東京五輪のゴールドパートナ―であることを伝える映像をCMから外しているとの記述は誤りでした。同社の広報コメントを追加しました。
(白木真紀、山光瑛美 Ju-min Park、斎藤真理 取材協力:Sam Nussey、山崎牧子、金昌蘭、安藤律子、清水律子、新田裕貴、梅川崇、竹本能文、平田紀之 編集:久保信博)
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