膠着するシリア情勢の均衡維持・再編のキャスティングボートを握らされているバイデン米新大統領
再びイスラエルがミサイル攻撃を行った。関係各国に翻弄されるシリアの人々...... SANA-YouTube
<再びイスラエルがシリアにミサイル攻撃を行った。イスラエル、トルコ、ロシアなど各国は、爆撃・ミサイル攻撃を通じて、バイデン新大統領が膠着状態にあるシリア情勢にどの程度、そしてどのように関与するかを見極めるようとしている...... >
米国のジョー・バイデン大統領就任(1月20日)後初となる爆撃・ミサイル攻撃が行われた。場所は、ドナルド・トランプ前大統領が就任後発となる軍事行動に踏み切ったのと同じ国、シリアだ。
最初に攻撃したのはイスラエル
最初に攻撃に踏み切ったのは、米国を最大の同盟国とするイスラエルだ。
シリア国営通信(SANA)はシリア軍筋の話として、1月22日午前4時頃、イスラエルがレバノンのトリポリ市方面から、ハマー県一帯に向けたミサイル多数を発射、防空部隊がこれを迎撃、そのほとんどを撃破したと伝えた。
SANAはまた、この攻撃で、ハマー市西部のカーズー地区の民家3棟が被害を受け、中にいた一家4人(男性1人、その妻と子供2人)が死亡、女性1人、子供2人、老人1人の計4人が負傷したと報じた。
イスラエル軍の攻撃に関して、英国を拠点とする反体制系NGOのシリア人権監視団は、ハマー市近郊の「イランの民兵」やレバノンのヒズブッラーの拠点5カ所が狙われ、いずれも完全に破壊されたと発表した。反体制系サイトのオリエント・ニュースは、ミサイルがレバノンの北部県アッカール郡沖の海上に展開するイスラエル軍の戦艦から発射された可能性が高いとしたうえで、「イランの民兵」とレバノンのヒズブッラーが駐留・展開する第47旅団基地とマアリーン丘が重点的に狙われたと伝えた。
イスラエルは今年に入ってすでに2度、シリア領内への越境爆撃を実施しているが(「イスラエルがシリア領内の「イランの民兵」を大規模爆撃、50人以上が死亡:米政権末期に繰り返される無謀」を参照)、今回も標的となったのはイランだった。
一方、ロシアのスプートニク・ニュースは、ハマー市一帯以外でも、タルトゥース県タルトゥース市、ダマスカス郊外県東カラムーン地方でも爆発音が聞こえたと報じた。
これに対して、シリア人権監視団は、タルトゥース県が爆撃を受けたとの情報は正しくないとする一方、ハマー市での住民への被害についても、シリア軍防空部隊が迎撃のために発射したミサイルの破片によるものだと発表し、SANAの報道内容を否定した。オリエント・ニュースなどの反体制系サイトも、シリア軍が発射した地対空ミサイルによって住民に被害が生じたと伝えた。
次に動いたのはトルコ
次に爆撃を行ったのはトルコだった。クルド民族主義組織の民主統一党(PYD)に近いハーワール・ニュース(ANHA)によると、イスラエル軍のミサイル攻撃の12時間あまりを経た1月22日午後3時45分頃、トルコ軍の無人航空機(ドローン)が、アレッポ県の対トルコ国境沿いに位置するアイン・アラブ市(クルド語名はコバネ)南の街道沿線の民家1棟を爆撃、これによって住民1人が負傷した。
アイン・アラブ市は、シリア政府と、PYDが主導し、米国が後援する自治政体の北・東シリア自治局が共同統治、ロシア軍が駐留、同地に近い国境地帯では、ロシア軍とトルコ軍が合同で警備活動を行っている。
トルコもまた、2020年末からシリア政府と北・東シリア自治局の共同統治下にあるラッカ県アイン・イーサー市一帯、アレッポ県タッル・リフアト市一帯、ハサカ県タッル・タムル町一帯への砲撃を強めていた(「シリア北部で軍事攻勢を強めるトルコ:内戦の面影を失ったシリア内戦の今」を参照)。