コロナ禍の今思う、阪神・淡路大震災が日本社会に遺したレガシー
1.17の被災地である兵庫県内の10市10町に住んでいたのは日本人だけではなかった。8万人の外国人が居住していて、そのうちの多くが負傷し、200人が命を落とした。被災地における外国籍住民の存在が、日本の社会の多様性について考える大きなきっかけとなった。特に被災外国籍住民の4人に1人が日本語の読み書きが出来なかった事実に、大きな衝撃が走った。被災地で被災者を対象に役立つ情報が盛んに行き交っても、全てが日本語であるため恩恵に預かれない社会構成員がいる。そのことが、日本における多言語化の必要性を浮き彫りにし、活字はもちろん、後に多言語放送局を誕生させた。私も被災地で経験を積んだ仲間とともに多言語コンテンツの会社を起業するに至った。
また、共生を妨げる要因は言葉に限らず、制度の壁や心の壁にもあるということの気付きが、多文化共生社会に向けたさらなる肉付けとなった。同時に、それまで「外国人は母国に帰る」という前提で来日しているとの発想に立って組み立てられていた国際交流の活動なども、「帰国するとは限らない」との立ち位置に立った多文化共生の活動へと変貌を遂げた。
1.17を機に産み落とされたボランティアと多文化共生の双子が多くの人たちの手によって立派に育ち、東京オリンピックや多くの場所で活躍しようとしている。繰り返しになるが、1.17で日本は多くを失った。そして、得たものも決して少なくはない。災害であっても、地震とコロナによる被害は同じではない。なにより人々の生身の交流が制限されたことは大きな違いだろう。だがコロナも私たちから奪う幸せと引き換えに、正の遺産を残そうとしていると思えてならない。
コロナ禍を社会変革に
事実、コロナショックは日本人に変化をもたらした。内閣府によって昨年4月に発令された緊急事態宣言からわずか1カ月後に行った「新型コロナウイルス感染症の影響下における生活意識・行動の変化に関する調査」では、「家族の重要性をより意識するようになった」や「生活を重視するようになった」などの回答が多く見られた、その中でもテレワークなどを経験した人の意識変化がより顕著であった。
長年の懸案だったにもかかわらず、実現できていなかったテーマの一つに「ワーク・ライフ・バランス」(WLB)がある。日本の経済成長期において、いつの間にか定着した、父が会社に、妻は家事育児に、子供は学校や塾に縛られバラバラになったその家族像や時間を、見直す契機になるのではないか。ワーク・ライフ・バランスを図ることで得られるのは家庭生活の質の向上だけではない。仕事においての生産性向上やイノベーションも期待できる。
デジタルトランスフォーメーション(DX)の遅れも日本の大きな課題で、「2025年の崖」が指摘されている。特に2025年時点には21年以上が経過した日本企業の基幹系システムが全体の6割に達すると見られている。システムのメンテナンスのために経費と人が奪われて、がんじがらめになっている現状を打破せねばならない。DXしないままだとすると2025年以降、最大で年間12兆円の経済損失が発生すると、専門家は警鐘を鳴らしている。その点も、必要に迫られ、コロナ禍でDXへの社会的関心が高まっていることに期待したい。後々、コロナパンデミックを振り返った時に、「WLB元年」や「DX元年」などと言われるような可能性を大いに秘めている。
このような時は特に、嫌なことばかりに目がいってしまうのは人間の性かもしれない。しかし、1.17のレガシーと照らし合わせ、少しでも明るい未来に想いを馳せるようにと、自分にも言い聞かせている。
【筆者:にしゃんた】
セイロン(現スリランカ)生まれ。高校生の時に初めて日本を訪れ、その後に再来日して立命館大学を卒業。日本国籍を取得。現在は大学で教壇に立ち、テレビ・ラジオへの出演、執筆などのほか各地でダイバーシティ スピーカー(多様性の語り部)としても活躍している。
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