最新記事

日本社会

コロナ禍の今思う、阪神・淡路大震災が日本社会に遺したレガシー

2021年1月20日(水)20時00分
にしゃんた(羽衣国際大学教授、タレント)

パンデミックも負だけでなく正の遺産も残すと信じたい Issei Kato-REUTERS

<26年前の1.17が産み落とした「ボランティア」と「多文化共生」という双子は、立派に成長している>

暦の上では新年が明けたが、新型コロナウイルスとの戦いは持ち越され、気分が一新できなかった人も少なくないだろう。新型コロナがもたらした被害はさまざまだが、最大の罪は何と言っても社会の分断だ。パンデミックが長引くに連れ、一層深まった印象が強い。人間社会の寛容さがコロナによって奪われた。

その中でも「命」か「経済」かの二極論がはびこった。 各国の民衆は「マスク派」と「非マスク派」に大きく分かれた。世界の民主主義国家で民衆間に分断が生まれ、非民主主義国家では政権と民衆の間の分断が強まる結果となった。アメリカではリベラルと保守のイデオロギー的な分断、民主党と共和党の政治的な分断、そして都市部と地方の地域的な分断が重なり、かつてないほどの深い溝をつくった。富める者と貧しき者の分断も確実に進んだ。母国スリランカでは、コロナにかこつけて民族的、宗教的な分断を煽る政治家も現れた。

私も早期終息を願っているが、今後もしばらくは政治、経済、社会において、時として大いに悪用されながら、新型コロナがキャスティングボートを握る存在であり続けるに違いない。   

このような社会の分断が深まるなか、今年の1月17日で阪神・淡路大震災から26年を迎えた。遺族などがコロナ対策を徹底しながら、地震発生時刻の早朝5時46分に凍える寒空の下に集い、犠牲者を悼んだ。26年前のその時間、私は震源地から離れた名古屋にいたが、それでも大きな揺れを感じて目を覚ましたことを思い出す。しばらくしてテレビに映し出される火の海と化した街、倒壊した高層ビルや傾いた高速道路など、見るに無残な街並みの映像を目の当たりにして、私もそして世界も大きな衝撃を受けた。

震災で失われたものは計り知れない

1.17で多くが失われた。6434人の命が奪われ、4万3792人が負傷し、24万9170棟が全半壊し、7036棟が全焼した。当時の経験を後世に残す目的で建てられた「阪神・淡路大震災記念 人と防災未来センター」には学生を連れて毎年行っているが、当時が蘇り今でも足がすくむ。  

数字にならないものも含めると、失ったものは計り知れない。命など得難いものと同じ天秤にはかけられないが、ただ、震災を機に日本社会が多くの得難い財産を手にしたことも忘れてはならない。私などが知っている範囲でも、1.17を機に2つの市民運動が産声をあげ、1995年が「ボランティア元年」、「多文化共生元年」と言われるようになった。

それまで日本の社会で、ボランティアは一部の人間だけが行うものと考えられていたが、1.17では被災地に1日平均約2万人、延べ167万人が現地に駆けつけ、ボランティアの概念を大きく変えた。現在の社会を支える大きな柱となったNPO法人設立のための法律を誕生させたのも1.17だった。ボランティアは一過性で終わることなく、東日本大震災の際は約550万人が被災地に出向くなど、ボランティア文化はその後、立派にそして確実に日本社会に根を下ろした。1月17日は「ボランティアの日」に、その日の前後1週間はボランティア週間と定められた。私が大学で担当している「ボランティア論」の授業のルーツも1.17にあると思うと感慨深い。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

中国への融資終了に具体的措置を、米財務長官がアジア

ビジネス

ベッセント長官、日韓との生産的な貿易協議を歓迎 米

ワールド

アングル:バングラ繊維産業、国内リサイクル能力向上

ワールド

ガザ支援搬入認めるようイスラエル首相に要請=トラン
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
2025年4月29日号(4/22発売)

タイ・ミャンマーでの大摘発を経て焦点はカンボジアへ。政府と癒着した犯罪の巣窟に日本人の影

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 2
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは? いずれ中国共産党を脅かす可能性も
  • 3
    トランプ政権の悪評が直撃、各国がアメリカへの渡航勧告を強化
  • 4
    健康寿命は延ばせる...認知症「14のリスク要因」とは…
  • 5
    アメリカ鉄鋼産業の復活へ...鍵はトランプ関税ではな…
  • 6
    関税ショックのベトナムすらアメリカ寄りに...南シナ…
  • 7
    ロケット弾直撃で次々に爆発、ロシア軍ヘリ4機が「破…
  • 8
    ロシア武器庫が爆発、巨大な火の玉が吹き上がる...ロ…
  • 9
    ビザ取消1300人超──アメリカで留学生の「粛清」進む
  • 10
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 1
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 2
    「生はちみつ」と「純粋はちみつ」は何が違うのか?...「偽スーパーフード」に専門家が警鐘
  • 3
    「スケールが違う」天の川にそっくりな銀河、宇宙初期に発見される
  • 4
    【クイズ】「地球の肺」と呼ばれる場所はどこ?
  • 5
    女性職員を毎日「ランチに誘う」...90歳の男性ボラン…
  • 6
    教皇死去を喜ぶトランプ派議員「神の手が悪を打ち負…
  • 7
    『職場の「困った人」をうまく動かす心理術』は必ず…
  • 8
    自宅の天井から「謎の物体」が...「これは何?」と投…
  • 9
    「100歳まで食・酒を楽しもう」肝機能が復活! 脂肪…
  • 10
    トランプ政権はナチスと類似?――「独裁者はまず大学…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった...糖尿病を予防し、がんと闘う効果にも期待が
  • 3
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 4
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 5
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 8
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 9
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中