最新記事

日韓関係

日韓関係の修復に意欲を見せるバイデン その仲介に必要な4つの心得

2021年1月5日(火)17時30分
スアン・ズン・ファン

慰安婦・徴用工問題に、バイデンは解決策を見いだせるか JOSHUA ROBERTS-REUTERS

<従軍慰安婦・徴用工など未解決の歴史問題で、被害者を差し置き、国家の利益を優先してきた日韓両国。和解を進めるため、アメリカに貢献できる点があるとすれば......>

北東アジアでの同盟の立て直しは、バイデン次期米大統領にとって困難な課題になりそうだ。なにしろ、根深い歴史問題をめぐって日韓関係が悪化している。

バイデンは、同盟国である日韓の関係修復に貢献する気満々のようだ。だが従前の賠償条約・協定が抱える根本的な欠陥、すなわち被害者ではなく国益を優先する道は回避しなければならない。

アメリカは冷戦中の1965年、アジアの同盟国を団結させるべく、日韓基本条約の締結を促した。この条約をもって、戦後補償に関する問題は全て解決済みだというのが日本政府の立場だ。

しかし、同条約は従軍慰安婦・徴用工問題の被害者に対する補償として正当ではなかった。これらの問題は、まだ表面化していなかったからだ。

さらに当時の韓国大統領、朴正煕は日本の支援を目当てに条約締結を強行し、手にした金額は被害者補償ではなく経済発展の資金に使われた。要するに、日韓基本条約は経済・安全保障・政治上の思惑を最優先していた。

2015年には慰安婦問題の「最終的かつ不可逆的」な解決を確認する日韓合意が結ばれた。中国の経済的圧力と北朝鮮の核実験を受け、韓国が対日融和を急いだ時期だ。

対中・対北朝鮮共同戦線を必須としたアメリカは、日韓の話し合いを仲介。両国は2016年、北朝鮮に関する情報共有などを目的とする秘密情報保護協定(GSOMIA)の締結にこぎ着けた。つまり日韓合意は日韓基本条約と同様、国家の都合によるものだった。

最近の対立は2018年、韓国大法院(最高裁判所)が日本企業に元徴用工への賠償を命じた判決がきっかけだ。貿易紛争が勃発し、いら立った韓国はGSOMIAの破棄をちらつかせた。未解決の歴史問題が貿易・安全保障面での日米韓の協力体制を損なう可能性を、日韓の報復合戦は証明している。

和解を推し進めるには、被害者を中心に据える必要がある。優先すべきは、精神面を含めて関係者の損失の修復を図ること。日韓が歴史と真正面から向き合えば、戦略的利益も達成しやすくなるはずだ。

もちろん、特に両国政府が問題を政治化したがっているとあって実現は難しい。それでも、アメリカの仲介が役立つ可能性はある。

第1に、米政府は新たな日韓の和解協定を仲介すべきだ。これは、存命中の元慰安婦や元徴用工との協議に基づくものでなければならない。

第2に、アメリカが第三者の立場で条約遵守を保証しては、という声がある。今後の米政権は、違反した側への外交・経済的圧力をためらってはならない。これによって、非協力的な態度や前言撤回は、する側にとってコストの高い行為になる。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

米国との建設的な対話に全面的にコミット=ゼレンスキ

ワールド

米、ロシアが和平合意ならエネルギー部門への制裁緩和

ワールド

トランプ米政権、コロンビア大への助成金を中止 反ユ

ワールド

ミャンマー軍事政権、2025年12月―26年1月に
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:進化し続ける天才ピアニスト 角野隼斗
特集:進化し続ける天才ピアニスト 角野隼斗
2025年3月11日号(3/ 4発売)

ジャンルと時空を超えて世界を熱狂させる新時代ピアニストの「軌跡」を追う

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやステータスではなく「負債」?
  • 2
    メーガン妃が「菓子袋を詰め替える」衝撃映像が話題に...「まさに庶民のマーサ・スチュアート!」
  • 3
    「これがロシア人への復讐だ...」ウクライナ軍がHIMARS攻撃で訓練中の兵士を「一掃」する衝撃映像を公開
  • 4
    同盟国にも牙を剥くトランプ大統領が日本には甘い4つ…
  • 5
    テスラ大炎上...戻らぬオーナー「悲劇の理由」
  • 6
    テスラ離れが急加速...世界中のオーナーが「見限る」…
  • 7
    うなり声をあげ、牙をむいて威嚇する犬...その「相手…
  • 8
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアで…
  • 9
    【クイズ】ウランよりも安全...次世代原子炉に期待の…
  • 10
    ラオスで熱気球が「着陸に失敗」して木に衝突...絶望…
  • 1
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 2
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやステータスではなく「負債」?
  • 3
    テスラ離れが急加速...世界中のオーナーが「見限る」ワケ
  • 4
    アメリカで牛肉さらに値上がりか...原因はトランプ政…
  • 5
    イーロン・マスクの急所を突け!最大ダメージを与え…
  • 6
    「浅い」主張ばかり...伊藤詩織の映画『Black Box Di…
  • 7
    メーガン妃が「菓子袋を詰め替える」衝撃映像が話題…
  • 8
    ニンジンが糖尿病の「予防と治療」に効果ある可能性…
  • 9
    「コメが消えた」の大間違い...「買い占め」ではない…
  • 10
    著名投資家ウォーレン・バフェット、関税は「戦争行…
  • 1
    テスラ離れが急加速...世界中のオーナーが「見限る」ワケ
  • 2
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 3
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 4
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 5
    「健康寿命」を延ばすのは「少食」と「皮下脂肪」だ…
  • 6
    【一発アウト】税務署が「怪しい!」と思う通帳とは?
  • 7
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 8
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 9
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン…
  • 10
    細胞を若返らせるカギが発見される...日本の研究チー…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中