硫黄島記念碑の星条旗にアメリカ人が見いだす真の意味
Monumental Perceptions
硫黄島記念碑の核となるのは敵地に打ち立てられた星条旗だ FRANK GRACEーMOMENT/GETTY IMAGES
<歴史家キース・ロウが解き明かす、太平洋戦争が米国旗に与えた決定的な意味>
戦争の記念碑が立てられるのは、勝利を祝福し、敗北を嘆くためだ。建物の壁に多くの戦死者の名前が刻み込まれるのは、後世が彼らの犠牲の上に成り立っていることを知らしめるためだ。
しかし時代や社会の価値観が変わって、英雄とたたえられてきた人がもはや英雄ではないと見なされるようになったら、その記念碑や銅像はどうすればいいのか。
イギリス人歴史家のキース・ロウは新著『歴史の囚人──記念碑は歴史と私たちについて何を物語っているか』(セント・マーティンズ・プレス刊)で、こうした問いに答えようとしている。
以下の抜粋部分で、ロウはアメリカの海兵隊戦争記念碑(硫黄島記念碑)を例に、ヨーロッパとアメリカの記念碑に対する考え方の違い、さらには世界とアメリカにおける米国旗の受け止め方の違いを説明している。
私はよく、第2次大戦とアメリカの英雄神話について話をする。アメリカ人は戦争の英雄を、人間ではなく伝説の登場人物か聖人のように見なすことがある。かつてロナルド・レーガン大統領は彼らを、信仰に駆り立てられ、神の祝福を受けたキリスト教徒の軍だと表現した。ビル・クリントン大統領は、「暗黒勢力」と戦って不朽の存在となった「自由の戦士」と呼んだ。
なぜ生身の兵士や退役軍人をそこまで持ち上げるのか。
アメリカ人に言わせれば、第2次大戦で米兵が果たした役割は、アメリカのあらゆる美徳を象徴している。ヨーロッパの人間にとっては正気とは思えない考え方だ。
こうした違いは戦争記念碑を見るとよく分かる。アメリカの記念碑は英雄がモチーフで、勝利の高揚感にあふれている。一方、ヨーロッパの戦争記念碑は犠牲者がモチーフで、沈痛な雰囲気が漂っていることが多い。アメリカの記念碑は理想主義的だが、ヨーロッパの記念碑からはさほど断固たる理念は感じられない。
アメリカで最も愛されている第2次大戦の戦争記念碑の1つは、アーリントン国立墓地の一角にある海兵隊戦争記念碑だろう。モチーフとなったのは、1945年に硫黄島の山頂に星条旗を立てた米海兵隊の兵士たち。報道写真家ジョー・ローゼンタールが撮影した有名な写真をベースに造られたものだ。
優れた記念碑はどれもそうだが、この記念碑の背景にも物語がある。それをきちんと理解するには、戦争の始まりにさかのぼる必要がある。