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硫黄島記念碑の星条旗にアメリカ人が見いだす真の意味

Monumental Perceptions

2021年1月4日(月)13時30分
キース・ロウ(イギリス人歴史家)

アメリカが第2次大戦に参戦したのは、1941年12月7日、日本が真珠湾に奇襲攻撃を仕掛けたのがきっかけだった。この悪名高い攻撃は、現在もアメリカの方向性を決定づけた歴史的な重大事件として記憶されている。

日本軍は1時間半にわたり、米太平洋艦隊の艦艇や飛行場や港湾施設を爆撃し、アメリカ側に死者2400人以上、負傷者約1200人の被害を与えた。米軍の艦艇21隻、航空機188機が失われた。

アメリカ社会は言葉で表せないほどの衝撃を受けた。以降、その衝撃に比肩するのは2001年の米同時多発テロしかないとされる。

全ては真珠湾が始まり

真珠湾攻撃の背景にあったロジックは単純だ。日本は太平洋地域を支配したいと考えていて、アメリカにこの地域から手を引かせたかった。そこで米太平洋艦隊に迅速に大打撃を与えれば、アメリカは日本の求める交渉に応じてくるだろうと考えた。

これはリスクの大きい戦略だった。アメリカが戦わずして諦めることは絶対にない。案の定、当初の衝撃から立ち直ると、アメリカは断固たる反撃を開始した。そして3年半かけて、太平洋を西へ西へと勢力を広げた。

しばしばその最前線にいたのが海兵隊だ。そして硫黄島は、彼らが最初に到達した日本の領土だった。

4日間に及ぶ激戦の末、数人の海兵隊員が、島で一番の高台である摺鉢山(すりばちやま)の頂上にたどり着いた。そこで彼らは日本軍が放置していった水道管に米国旗をくくり付けた。その数時間後、別の海兵隊員のグループが、もっと大きな星条旗を持ってきて付け替えた。ローゼンタールが捉えたのはその瞬間だ。

硫黄島記念碑はアメリカ人の断固たる決意と粘りと結束を象徴している。6人の海兵隊員は、米国旗を立てるという1つの目的のために全力を振り絞っている。彼らの手は同じポールを握り、彼らの足は同じ方向に曲がっている。

これは暴力の記念碑だ。殺害される日本兵の姿はないが、敵国の領土に6人の米海兵隊員が星条旗を打ち立てる力には、控えめに言ってもより暗い何かが見え隠れする。それは、当時の米国民が目にすることを許されなかったものだ。

だが、硫黄島記念碑は何にもまして報復を体現する。真珠湾攻撃で始まった物語は、日本の領土にアメリカの国旗を掲げる米軍によって終わる。これはあからさまな警告だ。アメリカを攻撃すれば、誰もが同じ結末を迎える、と。

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