最新記事

歴史

硫黄島記念碑の星条旗にアメリカ人が見いだす真の意味

Monumental Perceptions

2021年1月4日(月)13時30分
キース・ロウ(イギリス人歴史家)

硫黄島記念碑の核となるのは敵地に打ち立てられた星条旗だ FRANK GRACEーMOMENT/GETTY IMAGES

<歴史家キース・ロウが解き明かす、太平洋戦争が米国旗に与えた決定的な意味>

戦争の記念碑が立てられるのは、勝利を祝福し、敗北を嘆くためだ。建物の壁に多くの戦死者の名前が刻み込まれるのは、後世が彼らの犠牲の上に成り立っていることを知らしめるためだ。

しかし時代や社会の価値観が変わって、英雄とたたえられてきた人がもはや英雄ではないと見なされるようになったら、その記念碑や銅像はどうすればいいのか。

イギリス人歴史家のキース・ロウは新著『歴史の囚人──記念碑は歴史と私たちについて何を物語っているか』(セント・マーティンズ・プレス刊)で、こうした問いに答えようとしている。

以下の抜粋部分で、ロウはアメリカの海兵隊戦争記念碑(硫黄島記念碑)を例に、ヨーロッパとアメリカの記念碑に対する考え方の違い、さらには世界とアメリカにおける米国旗の受け止め方の違いを説明している。

◇ ◇ ◇


私はよく、第2次大戦とアメリカの英雄神話について話をする。アメリカ人は戦争の英雄を、人間ではなく伝説の登場人物か聖人のように見なすことがある。かつてロナルド・レーガン大統領は彼らを、信仰に駆り立てられ、神の祝福を受けたキリスト教徒の軍だと表現した。ビル・クリントン大統領は、「暗黒勢力」と戦って不朽の存在となった「自由の戦士」と呼んだ。

なぜ生身の兵士や退役軍人をそこまで持ち上げるのか。

アメリカ人に言わせれば、第2次大戦で米兵が果たした役割は、アメリカのあらゆる美徳を象徴している。ヨーロッパの人間にとっては正気とは思えない考え方だ。

こうした違いは戦争記念碑を見るとよく分かる。アメリカの記念碑は英雄がモチーフで、勝利の高揚感にあふれている。一方、ヨーロッパの戦争記念碑は犠牲者がモチーフで、沈痛な雰囲気が漂っていることが多い。アメリカの記念碑は理想主義的だが、ヨーロッパの記念碑からはさほど断固たる理念は感じられない。

アメリカで最も愛されている第2次大戦の戦争記念碑の1つは、アーリントン国立墓地の一角にある海兵隊戦争記念碑だろう。モチーフとなったのは、1945年に硫黄島の山頂に星条旗を立てた米海兵隊の兵士たち。報道写真家ジョー・ローゼンタールが撮影した有名な写真をベースに造られたものだ。

優れた記念碑はどれもそうだが、この記念碑の背景にも物語がある。それをきちんと理解するには、戦争の始まりにさかのぼる必要がある。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

豊田織機の非公開化報道、トヨタ「一部出資含め様々な

ビジネス

中国への融資終了に具体的措置を、米財務長官がアジア

ビジネス

ベッセント長官、日韓との生産的な貿易協議を歓迎 米

ワールド

アングル:バングラ繊維産業、国内リサイクル能力向上
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
2025年4月29日号(4/22発売)

タイ・ミャンマーでの大摘発を経て焦点はカンボジアへ。政府と癒着した犯罪の巣窟に日本人の影

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 2
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは? いずれ中国共産党を脅かす可能性も
  • 3
    トランプ政権の悪評が直撃、各国がアメリカへの渡航勧告を強化
  • 4
    健康寿命は延ばせる...認知症「14のリスク要因」とは…
  • 5
    アメリカ鉄鋼産業の復活へ...鍵はトランプ関税ではな…
  • 6
    ロシア武器庫が爆発、巨大な火の玉が吹き上がる...ロ…
  • 7
    関税ショックのベトナムすらアメリカ寄りに...南シナ…
  • 8
    ロケット弾直撃で次々に爆発、ロシア軍ヘリ4機が「破…
  • 9
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 10
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 1
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 2
    「生はちみつ」と「純粋はちみつ」は何が違うのか?...「偽スーパーフード」に専門家が警鐘
  • 3
    「スケールが違う」天の川にそっくりな銀河、宇宙初期に発見される
  • 4
    【クイズ】「地球の肺」と呼ばれる場所はどこ?
  • 5
    女性職員を毎日「ランチに誘う」...90歳の男性ボラン…
  • 6
    教皇死去を喜ぶトランプ派議員「神の手が悪を打ち負…
  • 7
    『職場の「困った人」をうまく動かす心理術』は必ず…
  • 8
    自宅の天井から「謎の物体」が...「これは何?」と投…
  • 9
    「100歳まで食・酒を楽しもう」肝機能が復活! 脂肪…
  • 10
    トランプ政権はナチスと類似?――「独裁者はまず大学…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった...糖尿病を予防し、がんと闘う効果にも期待が
  • 3
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 4
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 5
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 6
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 7
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 8
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 9
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中