最新記事

ワクチン

コロナ対策を阻む「ワクチン忌避派」の壁──不信感の源は?

THE VACCINE RESISTANCE

2020年12月24日(木)16時30分
フレッド・グタール(科学ジャーナリスト)

magf201224_Vaccine2.jpg

トランプ大統領の圧力に屈しなかったファウチ ERIN SCHAFF-THE NEW YORK TIMES-BLOOMBERG/GETTY IMAGES

各種の世論調査を見ると、新型コロナの感染が始まった当初からワクチンに対する国民の信頼は低かったが、夏になっても感染拡大が収まらない状況で信頼はさらに低下した。ギャラップの調査では、6月段階ではワクチン接種を望む人がまだ60%を超えていたが、9月に入ってトランプが無責任に「大統領選の投票日までにワクチンを完成させる」などと言い出すと、この数字は一時、50%まで落ち込んでしまった。

つまり、世論はちょっとしたことで大きく揺れる。揺れ方次第ではワクチンも宝の持ち腐れとなる。ファウチは感染拡大の阻止には国民の少なくとも75%、できれば85%がワクチン接種を受ける必要があるとして、「国民の50%が接種を拒めば公衆衛生上の深刻な健康問題になる」と語っている。

ワクチンの出荷が順調に始まったことで、国民一般の間でワクチンに対する理解が深まり、接種を希望する人が増えるとみる専門家もいる。だがワクチン接種率を75%まで引き上げ、それを維持して感染拡大を食い止めるのは至難の業だ。

なにしろワクチンへの信頼は、さまざまな理由で簡単に低下してしまう。ジョー・バイデン次期大統領への政権移行手続きがトランプの抵抗で滞るとか、何らかのトラブルでワクチンの配布が遅れるとか、想定外の副反応が見つかる(あるいは、その手の偽情報が流れる)とか、ワクチンに関する陰謀説が再浮上するとか。そんなことがあれば、接種を希望する人は確実に減る。

今回のワクチンへの抵抗の源には昔ながらの反ワクチン運動がある。1998年のこと、イギリスの医師アンドルー・ウェイクフィールドが著名な医学誌ランセットに、自閉症の発症とMMR(はしか、おたふく風邪、風疹の3種混合)ワクチン接種には関連性があるとする衝撃的な論文を発表した。その主張は後に誤りと判明し、同誌も論文を撤回した。MMRワクチンの接種時期と自閉症の発症時期が、たまたま重なっていた(どちらも2歳前後)にすぎなかったからだ。

しかし著者ウェイクフィールドは自説を曲げなかった。医師免許を剝奪されても屈せずに主張を続け、子供にワクチン接種を受けさせることの安全性を懸念する親たちの間にワクチン忌避の動きを広めた。

2014年からカリフォルニア州のディズニーランドではしかが流行すると、学校と保育園では親の宗教や個人的な信条のいかんを問わず子供へのワクチン接種を拒めない州法が成立した。だが2016年には、ウェイクフィールドが監督した映画『MMRワクチン告発』が公開された。自閉症とワクチン接種の関連性を政府が隠蔽していると主張する疑似ドキュメンタリーの映画だった。そして2019年にはジョージア州で、16〜17歳の子供なら親の同意なしでワクチン接種を受けられるとする法案が提出され、大いに物議を醸した。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

トランプ氏メディア企業、暗号資産決済サービス開発を

ワールド

レバノン東部で47人死亡、停戦交渉中もイスラエル軍

ビジネス

FRB、一段の利下げ必要 ペースは緩やかに=シカゴ

ワールド

ゲーツ元議員、司法長官の指名辞退 売春疑惑で適性に
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:超解説 トランプ2.0
特集:超解説 トランプ2.0
2024年11月26日号(11/19発売)

電光石火の閣僚人事で世界に先制パンチ。第2次トランプ政権で次に起きること

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対する中国人と日本人の反応が違う
  • 2
    Netflix「打ち切り病」の闇...効率が命、ファンの熱が抜け落ちたサービスの行く末は?
  • 3
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 4
    【ヨルダン王室】生後3カ月のイマン王女、早くもサッ…
  • 5
    NewJeans生みの親ミン・ヒジン、インスタフォローをす…
  • 6
    元幼稚園教諭の女性兵士がロシアの巡航ミサイル「Kh-…
  • 7
    ウクライナ軍、ロシア領内の兵器庫攻撃に「ATACMSを…
  • 8
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 9
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 10
    若者を追い込む少子化社会、日本・韓国で強まる閉塞感
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査を受けたら...衝撃的な結果に「謎が解けた」
  • 3
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り捨てる」しかない理由
  • 4
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 5
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 6
    アインシュタイン理論にズレ? 宇宙膨張が示す新たな…
  • 7
    沖縄ではマーガリンを「バター」と呼び、味噌汁はも…
  • 8
    クルスク州の戦場はロシア兵の「肉挽き機」に...ロシ…
  • 9
    メーガン妃が「輝きを失った瞬間」が話題に...その時…
  • 10
    中国富裕層の日本移住が増える訳......日本の医療制…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大きな身体を「丸呑み」する衝撃シーンの撮影に成功
  • 4
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 5
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 6
    北朝鮮兵が味方のロシア兵に発砲して2人死亡!? ウク…
  • 7
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 8
    足跡が見つかることさえ珍しい...「超希少」だが「大…
  • 9
    モスクワで高層ビルより高い「糞水(ふんすい)」噴…
  • 10
    ロシア陣地で大胆攻撃、集中砲火にも屈せず...M2ブラ…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中