最新記事

ISSUES 2021

特効薬なき対コロナ戦争、世界は中国の「覚悟」に学ぶべき

THERE WILL BE NO QUICK COVID FIX

2020年12月22日(火)15時45分
ウィリアム・ヘーゼルタイン(感染症専門医、バイオ技術起業家)

YULIA SHAIHUDINOVA-MOMENT/GETTY IMAGES

<2021年末までに、大流行を収束させるワクチンや治療薬が開発される可能性は低い。中国政府は初期対応で重大なミスも犯したが、世界に正しい警告もした。2021年に生かすべき教訓とは──。特集「ISSUES 2021」より>

新型コロナウイルスという強烈な嵐が地球上に吹き荒れた年、それが2020年だった。新型コロナはまずアジアに打撃を与え、その後まるで悲しみの津波のようにヨーロッパと南北アメリカに押し寄せた。
20201229_20210105issue_cover200.jpg
1月に世界で100人を超えた死者は、2月には1000人、3月に1万人、4月に10万人、9月には100万人を突破した。犠牲者が増え続けるなかで誰もが思ったのは、この流行はいつになったら終わるのかということだった。

いま多くの人が、新型コロナの大流行は2021年のどこかの時点で終わると思い込んでいる。だが残念ながら、その希望には根拠がない。

感染症の抑制には4つの条件が必要だ。政府の指導力、ガバナンス(統治)、社会の連帯、医療戦略である。大半の国が最初の3つでつまずいたことを考えれば、コロナは2021年も私たちを悩ませ続ける。

北半球では冬の到来とともに感染が急拡大している。とりわけ秋のうちに感染率が急上昇していたヨーロッパと北アメリカでは、死者が急増するだろう。北半球で寒さが緩む頃には南米で気温が下がり、新たな感染の波が襲来する。

4つ目の条件である医療戦略では、もうじきワクチンや命を救う治療法が開発されると多くの人が思っている。

専門家たちが全力を尽くしていることは確かだ。世界中の研究者が一刻を惜しむかのように動き、これまでにないほどの緊密な連携を見せている。こうして彼らはウイルスを特定し、遺伝子情報を解読し、ワクチンと治療法の開発に取り組んできた。

それでも、流行を収束させるだけの効果がある安全なワクチンや治療法が2021年末までに開発される可能性は、極めて低い。

中国が抱いていた覚悟

この記事を書いている2020年末の時点で、臨床試験の最終結果が論文として学術誌に発表されたのは、米製薬大手ファイザーがドイツの製薬企業ビオンテックと共同開発したワクチン候補だけだ。

今ある情報から判断するなら、現在開発中のワクチンは感染を予防し、一生にわたり持続する免疫を提供する効果を持ち得ない。せいぜい症状を抑え、重症化するケースを最小限にとどめる程度だろう。

しかも開発中のワクチンはいずれも2回以上の接種が必要になるとみられ、効果が表れるまでに長ければ2カ月かかると考えられる。

同様に、治療薬の開発にも時間がかかる。大きな話題になった抗ウイルス薬レムデシビルも、回復した患者の血液を使う回復期血漿療法も、罹患率と死亡率の抑制には効果がほとんどないか、全くないことが証明された。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米住宅供給問題、高水準の政策金利で複雑化=ミネアポ

ビジネス

米金融政策は「引き締め的」、物価下押し圧力に=シカ

ワールド

ガザ休戦合意に向けた取り組み、振り出しに戻る=ハマ

ビジネス

マクドナルド、米国内で5ドルのセットメニュー開始か
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:岸田のホンネ
特集:岸田のホンネ
2024年5月14日号(5/ 8発売)

金正恩会談、台湾有事、円安・インフレの出口......岸田首相がニューズウィーク単独取材で語った「次の日本」

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    大阪万博でも「同じ過ち」が繰り返された...「太平洋戦争の敗北」を招いた日本社会の大きな弱点とは?

  • 2

    「少なくとも10年の禁固刑は覚悟すべき」「大谷はカネを取り戻せない」――水原一平の罪状認否を前に米大学教授が厳しい予測

  • 3

    ウクライナ防空の切り札「機関銃ドローン」、米追加支援で供与の可能性

  • 4

    過去30年、乗客の荷物を1つも紛失したことがない奇跡…

  • 5

    中国のホテルで「麻酔」を打たれ、体を「ギプスで固…

  • 6

    日本の10代は「スマホだけ」しか使いこなせない

  • 7

    「恋人に会いたい」歌姫テイラー・スウィフト...不必…

  • 8

    休養学の医学博士が解説「お風呂・温泉の健康術」楽…

  • 9

    「一番マシ」な政党だったはずが...一党長期政権支配…

  • 10

    「妻の行動で国民に心配かけたことを謝罪」 韓国ユン…

  • 1

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地ジャンプスーツ」が話題に

  • 2

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受ける瞬間の映像...クラスター弾炸裂で「逃げ場なし」の恐怖

  • 3

    大阪万博でも「同じ過ち」が繰り返された...「太平洋戦争の敗北」を招いた日本社会の大きな弱点とは?

  • 4

    「恋人に会いたい」歌姫テイラー・スウィフト...不必…

  • 5

    屋外に集合したロシア兵たちを「狙い撃ち」...HIMARS…

  • 6

    テイラー・スウィフトの大胆「肌見せ」ドレス写真...…

  • 7

    外国人労働者がいないと経済が回らないのだが......…

  • 8

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 9

    日本の10代は「スマホだけ」しか使いこなせない

  • 10

    休養学の医学博士が解説「お風呂・温泉の健康術」楽…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 6

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 7

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 8

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体…

  • 9

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

  • 10

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中