フィリピン滞在のサウジアラビア人男性逮捕 中東ISメンバーの入国を支援
ドゥテルテ政権、テロ組織掃討を強化
ドゥテルテ大統領は2016年の大統領就任時から「フィリピン共産党とその軍事部門である新人民軍(NPA)をはじめとする反政府組織、テロ組織の壊滅を目指す」との方針を示しており、反政府勢力に対する国軍や国家警察などの治安当局による攻勢、掃討・壊滅作戦が現在も続いている。
フィリピンではNPAをはじめとしてイスラム系テロ組織である「アブ・サヤフ」やBIFFなどが依然として活動を続け、自爆テロや治安部隊との銃撃戦が繰り返されている。
ただ、治安当局による掃討作戦も効果をあげているようで各組織のメンバー摘発、射殺、投降が最近続いている。
12月13日、国軍は2020年に実施した「アブ・サヤフ」掃討作戦による銃撃戦などでこれまでに幹部を含むメンバーなど68人を殺害し、128人が投降したことを明らかにした。さらに「アブ・サヤフ」の拠点などから銃器156丁、手製爆弾10個などを押収したことも明らかにしている。
またNPAなどの共産勢力に対する作戦では2020年1月から12月までに201人を殺害し、7000人以上のメンバー、支援者が投降したとして、ドゥテルテ政権が進める国内治安対策が成果をあげていることを強調した。
こうした状況を受けて国軍のギルバート・イタリア・ガパイ参謀長は、ドゥテルテ大統領が掲げている大統領としての任期である2022年までに「共産勢力を一掃する」という公約が「実現に近づいている」と表明し、今後も作戦を継続することを強調した。
一方でBIFFに関しては、組織は弱体化していると伝えられるものの、12月3日にミンダナオ島中部マギンダナオ州ダトゥピアンにある軍施設を約50人のBIFFメンバーが襲撃、銃撃戦となった。駐車中の警察車両が放火されたものの幸いに犠牲者が出る前にBIFFが撤退したという事件がおきるなど依然として活動を続けている。
こうしたことからも今回のサウジアラビア人、アルシュヒバニ容疑者の逮捕は関係が深いとされるBIFFなどへの集中的な捜査の成果の一環とみられ、今後アルシュヒバニ容疑者への取り調べを通じて中東とフィリピンを結ぶ密航ルートの解明・摘発、さらにBIFFの壊滅作戦に結びつく情報が得られるものと治安当局は期待している。
[執筆者]
大塚智彦(フリージャーナリスト)
1957年東京生まれ。国学院大学文学部史学科卒、米ジョージワシントン大学大学院宗教学科中退。1984年毎日新聞社入社、長野支局、東京外信部防衛庁担当などを経てジャカルタ支局長。2000年産経新聞社入社、シンガポール支局長、社会部防衛省担当などを歴任。2014年からPan Asia News所属のフリーランス記者として東南アジアをフィールドに取材活動を続ける。著書に「アジアの中の自衛隊」(東洋経済新報社)、「民主国家への道、ジャカルタ報道2000日」(小学館)など
2024年11月26日号(11月19日発売)は「超解説 トランプ2.0」特集。電光石火の閣僚人事で世界に先制パンチ。第2次トランプ政権で次に起きること。[PLUS]驚きの閣僚リスト/分野別米投資ガイド
※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら