最新記事

日本社会

50代男性の体罰の許容率が他の年代より高い理由

2020年12月11日(金)14時00分
舞田敏彦(教育社会学者)

上記は18歳以上の成人の回答だが、次に問うべきは、どの年齢層で体罰許容度が高いかだ。年齢層別に見ると、暴力を許容する意識がいかにして形成されるかがうっすらと見えてくる。

上記調査の個票データを使って、日本人サンプルを10歳刻みの年齢層別に分け、10段階の体罰許容度の平均値を計算してみた。男女に分けた集計もした。<図1>は、結果をグラフにしたものだ。

data201211-chart02.png

許容度の絶対水準はどの層でも低いが、ここでの主眼は相対比較だ。体罰許容度は年齢と直線的に比例するのではなく、50代で最も高い。この年齢層では性差も大きくなっている。

今の50代と言えば、学校が荒れに荒れた70年代後半から80年代初頭と思春期が重なり、学校の秩序維持のため、頻繁に体罰を受けた世代だ。男子は特にそうだろう。育った時代背景の影響(傷跡)が出ているようで、何とも痛々しい。

子ども期に体罰を何度も受けた子は、暴力を容認するようになる。体罰は世代連鎖する。よく言われることだが、それを傍証するデータのように思えてならない。その理由については様々なことが言われているが、重要なのは次の2点だ。

体罰が愛情表現?

まずは、体罰を受けると、理性をつかさどる脳の前頭前野が委縮することだ。子どもを叩くと脳が縮み、理性の制御が効かなくなるので、ちょっとしたことで手を上げるようになる。

もう一つは、体罰を愛情表現と歪んで認知してしまうことだ。暴力を受けたことを肯定的に捉えないと生きづらいためで、一種の防衛機制と言ってもいい。かくして、自分が愛情と信じるところの体罰をわが子にもしてしまう。体罰の世代連鎖とはこういうことで、体罰は暴力を未来に波及させることに他ならない。

教職員の体罰は学校教育法で禁じられ、保護者の体罰も今年4月の児童虐待防止法改正で禁じられた。コロナ禍による巣ごもり生活で、親子が密室で共にいる時間が増え、衝突が起きやすくなっている。子どもがいる親の包摂(インクルージョン)を、身近な地域社会で進めていくべきだ。

兵庫県の明石市が実践している、おむつ宅配による見守りなどは妙案だ。今は宅配による買い物が増え訪問式のサービスも多くなっているが、「届ける、訪問する」のついでにちょっとした目配りをするだけでもインクルージョンの発端になる。

<資料:『第7回・世界価値観調査』

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

米判事、議会襲撃巡る恩赦を批判 「修正主義的神話」

ワールド

米南部、記録的寒波と吹雪で少なくとも12人死亡 9

ワールド

パリ協定再離脱、米石油・ガス業界は反対 トランプ政

ワールド

米軍、メキシコ国境に兵士1500人追加派遣へ さら
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプの頭の中
特集:トランプの頭の中
2025年1月28日号(1/21発売)

いよいよ始まる第2次トランプ政権。再任大統領の行動原理と世界観を知る

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    有害なティーバッグをどう見分けるか?...研究者のアドバイス【最新研究・続報】
  • 2
    戦場に「杖をつく兵士」を送り込むロシア軍...負傷兵を「いとも簡単に」爆撃する残虐映像をウクライナが公開
  • 3
    被害の全容が見通せない、LAの山火事...見渡す限りの焼け野原
  • 4
    「バイデン...寝てる?」トランプ就任式で「スリーピ…
  • 5
    欧州だけでも「十分足りる」...トランプがウクライナ…
  • 6
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者…
  • 7
    【クイズ】長すぎる英単語「Antidisestablishmentari…
  • 8
    トランプ就任で「USスチール買収」はどう動くか...「…
  • 9
    電子レンジは「バクテリアの温床」...どう掃除すれば…
  • 10
    「後継者誕生?」バロン・トランプ氏、父の就任式で…
  • 1
    有害なティーバッグをどう見分けるか?...研究者のアドバイス【最新研究・続報】
  • 2
    失礼すぎる!「1人ディズニー」を楽しむ男性に、女性客が「気味が悪い」...男性の反撃に「完璧な対処」の声
  • 3
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼いでいるプロゲーマーが語る「eスポーツのリアル」
  • 4
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べて…
  • 5
    轟音に次ぐ轟音...ロシア国内の化学工場を夜間に襲う…
  • 6
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 7
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 8
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者…
  • 9
    被害の全容が見通せない、LAの山火事...見渡す限りの…
  • 10
    ドラマ「海に眠るダイヤモンド」で再注目...軍艦島の…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 3
    大腸がんの原因になる食品とは?...がん治療に革命をもたらす可能性も【最新研究】
  • 4
    有害なティーバッグをどう見分けるか?...研究者のア…
  • 5
    夜空を切り裂いた「爆発の閃光」...「ロシア北方艦隊…
  • 6
    TBS日曜劇場が描かなかった坑夫生活...東京ドーム1.3…
  • 7
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 8
    「涙止まらん...」トリミングの結果、何の動物か分か…
  • 9
    「戦死証明書」を渡され...ロシアで戦死した北朝鮮兵…
  • 10
    「腹の底から笑った!」ママの「アダルト」なクリス…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中