50代男性の体罰の許容率が他の年代より高い理由
上記は18歳以上の成人の回答だが、次に問うべきは、どの年齢層で体罰許容度が高いかだ。年齢層別に見ると、暴力を許容する意識がいかにして形成されるかがうっすらと見えてくる。
上記調査の個票データを使って、日本人サンプルを10歳刻みの年齢層別に分け、10段階の体罰許容度の平均値を計算してみた。男女に分けた集計もした。<図1>は、結果をグラフにしたものだ。
許容度の絶対水準はどの層でも低いが、ここでの主眼は相対比較だ。体罰許容度は年齢と直線的に比例するのではなく、50代で最も高い。この年齢層では性差も大きくなっている。
今の50代と言えば、学校が荒れに荒れた70年代後半から80年代初頭と思春期が重なり、学校の秩序維持のため、頻繁に体罰を受けた世代だ。男子は特にそうだろう。育った時代背景の影響(傷跡)が出ているようで、何とも痛々しい。
子ども期に体罰を何度も受けた子は、暴力を容認するようになる。体罰は世代連鎖する。よく言われることだが、それを傍証するデータのように思えてならない。その理由については様々なことが言われているが、重要なのは次の2点だ。
体罰が愛情表現?
まずは、体罰を受けると、理性をつかさどる脳の前頭前野が委縮することだ。子どもを叩くと脳が縮み、理性の制御が効かなくなるので、ちょっとしたことで手を上げるようになる。
もう一つは、体罰を愛情表現と歪んで認知してしまうことだ。暴力を受けたことを肯定的に捉えないと生きづらいためで、一種の防衛機制と言ってもいい。かくして、自分が愛情と信じるところの体罰をわが子にもしてしまう。体罰の世代連鎖とはこういうことで、体罰は暴力を未来に波及させることに他ならない。
教職員の体罰は学校教育法で禁じられ、保護者の体罰も今年4月の児童虐待防止法改正で禁じられた。コロナ禍による巣ごもり生活で、親子が密室で共にいる時間が増え、衝突が起きやすくなっている。子どもがいる親の包摂(インクルージョン)を、身近な地域社会で進めていくべきだ。
兵庫県の明石市が実践している、おむつ宅配による見守りなどは妙案だ。今は宅配による買い物が増え訪問式のサービスも多くなっているが、「届ける、訪問する」のついでにちょっとした目配りをするだけでもインクルージョンの発端になる。
<資料:『第7回・世界価値観調査』>