NYタイムズ「トランプ政権高官」論説、正体は65番目の中堅職員だった
TIME’S OP-ED A FAILURE OF JOURNALISM
匿名論説の一件はニューヨーク・タイムズにとって大失態だった ANDREW LICHTENSTEIN-CORBIS/GETTY IMAGES
<大々的に報じられたニューヨーク・タイムズの2018年の「トランプ批判」匿名論説だが、先日、その筆者が明らかになった。「ジャーナリズムの失態」「国家安全保障を脅かした」と、米共和党の大物議員マルコ・ルビオが批判する>
真実が靴を履いている間に、嘘は世界を半周する──と言われる。自由で公正な報道は、偽情報に対する最強の防衛手段の1つだが、その報道を担当する機関は真実を追求し、自らの立場に見合う仕事をしなくてはならない。
ニューヨーク・タイムズ(NYT)は2018年9月、匿名の「トランプ政権高官」による論説を掲載した。政権内部からのトランプ批判の論説がNYTに掲載されたことをメディアは大々的に報じ、外国のプロパガンダ機関はアメリカの不安定さの証しだと指摘した。
筆者の正体をめぐって臆測が飛び交うなか、多くのアメリカ人は当然ながら書き手は政権トップに近い人物だと考えた。ペンス副大統領やヘイリー国連大使(当時)の名前まで挙がった。
今年10月28日、この論説の筆者が明らかになった。国土安全保障省の職員で、省内での地位は65番目という男性だった。
これはまさに、ネット時代にメディアの受け手に中途半端な情報を与えて「もっと知りたい」という好奇心をあおる「クリックベイト(まき餌)」であり、怒りをたき付けることを目的にした「アウトレイジ・ジャーナリズム」だ。こうした報道姿勢が多くのアメリカ人に、メディアに対して冷ややかな姿勢を取らせている。
非常に危険な事態だ。視聴率やリツイートの競争の中で、センセーショナリズムを優先する記者たちは自覚がないまま偽情報を拡散し、わが国の選挙制度への信頼を失わせる工作にいそしむ外国勢力の協力者になっている。
ロシアやイラン、中国などの政府がアメリカを分断しようとしている今、メディアの無責任な行動を批判することはこれまでにも増して重要だ。
中堅職員による論説を政府高官のものであるかのように掲載したことは、目を覆うべきジャーナリズムの失態と言える。アメリカには客観報道が存在するという国民の信頼を損ない、国家安全保障を脅かした。
ツイッターが新聞を乗っ取った
NYTの判断は、ジャーナリズムの最高権威とも呼ばれる同紙にとって史上最低のものだった。真実が明らかになった今は、同紙論説欄の元編集者バリ・ワイスの辞職に際しての文章が奇妙なくらい心に響く。
「NYTのマストヘッド(編集者名などを記した「奥付」)にツイッターの名はない。だが、ツイッターは本紙の究極の編集長となった。ツイッター的な倫理や道徳的姿勢が新聞を侵食し、紙面は一種のパフォーマンス空間になっていった。記事は一部の読者を満足させるために選ばれる。好奇心あふれる一般の人々に世界のことを伝え、彼らが独自に結論を引き出せるよう手助けをするためではなくなっていった」