日本人が知らない新型コロナワクチン争奪戦──ゼロから分かるその種類、メカニズム、研究開発最前線
AN UNPRECEDENTED VACCINE RACE
その設計図としてDNAやmRNAを使ったり、無害な別のウイルスの中に設計図を忍び込ませてそれを運び屋(ベクター)としてヒトの体内に入れたり、昆虫や植物、哺乳動物の細胞などで「敵の一部」(特に、ヒトの細胞に侵入する際に鍵の役割をする新型コロナの表面にあるスパイクの抗原タンパク質)や「敵に似たもの」(ウイルス様粒子)を作ってヒトに投与するなどの違いがある。
ワクチンはいつできるのか
一般に、生ワクチンは「生きた敵そのもの」を使うので獲得する免疫力が強いと言われ、これまでもBCG、ポリオ、麻疹、風疹などで多くが開発・使用されてきた。欠点としては、ウイルスを弱毒化してもそれによって感染が引き起こされるリスクがゼロではないことだ。
不活化ワクチンも、生きていなくとも「敵そのもの」なので、生ワクチンには劣るが免疫を獲得でき、これまでインフルエンザや日本脳炎などで実績もある。
ただし、両方のワクチンとも製造するには培養を含めて時間や手間がかかり、例えばインフルエンザワクチンでは鶏の受精卵を10~12日温めてからウイルスを注射し、2日後に増殖したウイルスを採集する。卵1個で大人1人分しか採れないため、大規模な製造施設も必要だ。
これに対し、バイオテクノロジーを駆使すれば、病原体自体は接種しないので感染リスクがない上、遺伝子情報を得た後は開発への着手が早く、迅速かつ大量に製造できるという利点がある。欠点は研究開発の実績が乏しく、有効性や安全性に不透明な点が多いこと。ウイルスベクターワクチンも、無毒であっても他のウイルスを運び屋として使うので、それ自体に免疫ができて、2度目以降の投与で効果が下がることがある。
いずれのワクチンも、効果を上げるために複数回接種したり、アジュバントと呼ばれる強化剤を添加するなどの工夫もなされる。有効性と安全性、年齢や性差による違いなどもしっかり把握する必要があるため、これまでワクチンの研究開発には10年以上の年月がかけられてきた。
では、新型コロナに有効なワクチンはいつできるのだろうか?
WHO(世界保健機関)の最新情報(10月15日)によると世界で研究開発中のワクチン候補は198あり、うち42が臨床試験中で、最終の第3相試験に入ったものが10候補ある。
過去のデータからは、基礎研究や非臨床試験から臨床試験に行き着くのが1割弱、臨床試験の最終段階をクリアするのはその2~3割とされている。現在の進捗状況では、今年末までに2候補の治験結果が判明し、うまくすれば来年初めまでに承認・接種開始となるワクチンが登場する可能性もある。特にヨーロッパでの「第1号」は英アストラゼネカらが開発中の「AZD1222」と予想されている。
しかし最終的に、効果が強く長く持続するワクチンが開発されない可能性もある。HIVでは過去30年以上で250以上の治験が行われたが、市場に出たワクチンは1つもない。また開発に成功しても、その予防効果が100%で持続する、とは限らない。50%程度、短期持続でも承認を受ける可能性がある。
実は治験中ながら、実質的に使用されているワクチンもある。中国のシノファームなどが開発するもので、軍人、さらに医療、運輸、食品市場などの労働者が既に接種した。また、ロシア政府は世界初の人工衛星にちなんで名付けられたワクチン候補「スプートニクV」を8月上旬、臨床試験の第2段階の終了時に世界初で認可し、9月から4万人のボランティアが接種している。