日本学術会議問題に僕たち映画人が声を上げた理由(森達也)
Why We Have to Fight Back
共産党や左翼思想と何らかの関わりがあるとの疑いを持たれた映画監督や脚本家、俳優やプロデューサーたちは議会に召喚され、踏み絵のように共産主義と関わりがないことを証言するよう要請された。
しかし、召喚や証言を拒否した監督や脚本家たちがいた。議会侮辱罪で有罪判決を受けてハリウッドを追放された彼ら10人は、ハリウッド・テンと呼ばれている。その1人で共産党員であることを隠さなかったダルトン・トランボは1年近くの刑期を終えた後、『黒い牡牛』や『ローマの休日』などの脚本を別名で書き、さらにハリウッド復帰後は、自らが書いた小説を『ジョニーは戦場へ行った』のタイトルで監督した。まさに不屈の男。でも(エリア・カザンなど)圧力に屈した映画人たちも多かった。赤狩りが多くの標的をいけにえにするたびに、多くのアメリカ国民は歓喜の声を上げた。
もしもSNSがあったなら、「パヨクの映画監督ざまあみろ」「国益を害する反日分子を一掃しろ」的なツイートがあふれていただろう。
6人の学者たちの任命を拒否した理由は何か。その説明はいまだ首相の口からなされていない。今はまだメディアでもニュースになっているが、あと数日もすれば多くの人は関心を失うはずだ。ならば政権にとっての実績だけが残る。言論や表現の場はさらに萎縮する。もちろん70 年前とは状況は違う。でも本質は変わっていない。今回の声明に賛同した映画人たちは、その思いを共通して抱いている。
<2020年10月20日号掲載>