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コロナ禍でプラスチック業界に激震 廃棄増がリサイクル圧迫

2020年10月10日(土)13時01分

廃棄物が増えるとしても、プラスチック需要の増大は石油化学会社にとって社運のかかる問題だ。

エクソンは3月の投資家向けの説明で、石化製品の需要は向こう20、30年間にわたり年間4%の伸びが見込まれるとした。

BPは9月の年次市場報告で、2018年に90%超えていた輸送向けエネルギーにおける石油のシェアが80%を切り、2050年には20%程度まで低下する予想した。

石油会社は環境への懸念が石化製品の伸びをそぐのではないかと危惧している。

コロナ禍、使い捨てプラが人命救う

今年だけでエクソン、ロイヤル・ダッチ・シェル、BASFなどが中国の石化プラントへの投資を発表し、総額は250億ドルとなっている。コンサルタント会社ウッド・マッケンジーによると、これ以外に今後5年間で176件の石化プラントの新設が計画されており、その80%近くがアジアに集中している。

米国化学工業会(ACC)によると、米国では2010年以降、エネルギー企業によるプラスチックなど化学関連プロジェクトの設備投資が333件、2000億ドル強に上った。米国は「シェール革命」で安価な天然ガスが豊富に出回り、石化業界がこの機を利用しようと設備投資を活発化させた。

石化業界の関係者は、使い捨てプラスチックは人命を救ってきたと主張している。

米国プラスチック工業協会(PLASTICS)のトニー・ラドセウスキ氏は「コロナ禍の間、使い捨てプラスチックが生と死を分けてきた」と述べ、点滴剤の容器や人工呼吸器には使い捨てプラスチックが欠かせないと訴えた。

PLASTICSは3月、米保健福祉省に書簡を送り、医療現場におけるプラスチック製バッグの利用禁止措置を撤回するようを求めた。

しかし米国立アレルギー・感染症研究所が行った調査では、新型コロナウイルスがプラスチック上では72時間後も活性を失っていないことが分かった。これに対し段ボールや銅は24時間だ。

ACCの幹部は、プラスチックを禁止しても消費者はガラスや紙など他の使い捨て原料を利用するようになるだけなので、プラスチックの利用禁止に反対していると説明。「厄介なことだが、プラスチックを禁止してもリユース可能な製品が代わりに使われることはないだろう」と話した。

国際自然保護連合などによると、プラスチックは海洋ゴミの80%を占めている。国連によると、プラスチック汚染はカメやクジラなど海洋生物を死に至らせ、廃プラスチックから流れ出る化学物質が体内に取り込まれるとホルモン異常やがんなどさまざまな被害を引き起こす。

対応追いつかないリサイクル業者

プラスチックのリサイクル業者は、新型コロナのパンデミックで新たな課題に直面している。

ICISによると、第2・四半期に欧州の包装用産業向けリサイクルプラスチックの需要は前年同期比で20-30%減少した。ポルトガルのリサイクル会社エクストゥループラスのサンドラ・カストロ最高経営責任者(CEO)によると、同時に新型コロナ流行で自宅にこもった人々の間で「断捨離」が広がり、リサイクル用のごみは増えている。「リサイクル業者の多くは処理が追いついていない。自分たちが生み出したごみの解決策を提供できなければならない」と話した。

コカ・コーラは9月、ロイターの取材に、英国の包装材料におけるリサイクル品の比率を2020年初頭までに半分に引き上げるとの目標について、新型コロナの影響で達成時期が遅れると明らかにした。11月には目標が達成できると見込んでいる。

NGOの「ブレーク・フリー・フロム・プラスチック」の調べによると、コカ・コーラ、ネスレ、ペプシコの3社が2年連続でプラスチックごみ汚染企業のトップ3となっている。

3社は数十年にわたりプラスチックのリサイクルを増やすとの自主的な目標を掲げているが、おおむね達成できなかった。

ネスレの広報担当者は「バージン材料よりも高い価格でリサイクルプラスチックを購入することも少なくない」と述べ、原料リサイクルへの投資は最優先課題だとした。

この3社のリサイクル・ごみ清掃プログラムへの投資は7年間で総額2億1500万ドル。ICISとウッド・マッケンジーは、リサイクル向けの投資が今のペースなら目標達成はおぼつかないとしている。

クジラ300万頭分の廃棄量

ピュー・トラストが6月に公表した調査によると、各社が発表済みのリサイクル目標を達成しても、海洋投棄されるプラスチックごみは現在の1100万トンから2040年には2900万トンに増加する。投棄の総量は6億トン、シロナガスクジラ300万頭の重量に達する計算だ。

「廃棄プラスチックをなくす国際アライアンス」は国際的な懸念の高まりを受けて、発展途上国で清掃作業を行っている小規模なNGOと協力関係を結ぶと発表した。

国際アライアンスのジェイコブ・デュアーCEOは「一夜では変わらないと分かっている。われわれにとって重要なのは、私たちのプロジェクトが終着点ではなく出発点だと見なされることだ」と話した。

(Joe Brock記者、取材協力:Neil Jerome Morales記者、Catarina Demony記者、Noah Browning記者、Karen Lema記者、Heekyong Yang記者、大林優香記者、Marwa Rashad記者)

[ロイター]


トムソンロイター・ジャパン

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