最新記事

米大統領選2020:トランプの勝算 バイデンの誤算

運命の大統領選、投票後のアメリカを待つカオス──両陣営の勝利宣言で全米は大混乱に

THE COMING ELECTION NIGHTMARE

2020年9月25日(金)16時45分
デービッド・H・フリードマン(ジャーナリスト)

magSR200925_US3.jpg

大規模な郵便投票システムの構築には時間がかかる GEORGE FREY/GETTY IMAGES

トランプは支持率では劣勢だが、トランプ支持者の熱量はバイデン支持者よりはるかに大きい。つまり投票のハードルを大きく上げれば、トランプにも勝ち目はあるということだ。さほど熱心ではない有権者(その多くは民主党支持者)は投票できないか、投票を諦める可能性が高いからだ。トランプと共和党が郵便投票に強硬に反対するのも投票率を下げたいからだろう。

新型コロナの感染拡大が止まらないなかで、両党の支持者の間では郵便投票への関心が高まってきている。それを受けてニューヨークなど数十州は、それこそ一夜にして郵便投票の体制を大幅に拡大させようと動き始めた。しかし、これらの州は投票用紙の配布や回収、集計のプロセスで大きな問題に直面する可能性がある。有権者のかなりの割合が郵便投票を選択しても対応できるシステムを構築するには、長い年数が必要だと、選挙の投開票システムに詳しいオーバーン大学(アラバマ州)のキャサリン・ヘール教授(政治学)は指摘する。「慌てて制度を変えようとすれば、大きなリスクがついて回る」

3月以降、郵便投票を容易にする法案が可決された州は12州に上るが、特に動向が注目されているのは大統領選の激戦州だ。テキサス、フロリダ、ペンシルベニア、ジョージア、ミシガン、ノースカロライナの各州では、有権者の投票行動が少し変わるだけでも、両候補の獲得する選挙人の数が15人以上動く可能性がある。

テキサス州では、州知事と共和党主導の州議会が郵便投票の拡大を徹底的に阻もうとしてきた。郵便投票推進派が州政府を裁判に訴えて勝訴したが、その後、州政府が上訴して判決は覆った。

共和党の圧力に屈して郵便投票を制限しようとしている州では、ほとんどの有権者は1つの選択肢しか与えられていないと、ヘールは言う。その選択肢とは、投票所で長蛇の列に並ぶというものだ。

投票機も不正やミスに弱い

一方、共和党の地盤である州や郡は、有権者登録を難しくするというおなじみの手法を徹底させている。

ニューヨーク大学法科大学院ブレナン司法センターによると、2016年以降、有権者登録のハードルを引き上げた州は23州にも上る。具体的には、有効と認める身分証明書の形式を厳格化したり、再登録を繰り返し要求したりしている。この23の州は、ロードアイランド州以外は全て共和党が優位に立っている。

共和党の勢力が強い州や郡は、民主党支持者の多い地区で投票所へのアクセスを難しくしたりもしている。ある研究によると、黒人住民が圧倒的に多い地区の投票所では、2016年の選挙での投票待ち時間が白人が多い地区の1.3倍近くに上った。

「当局は選挙管理予算を自分たちの武器として用いて、気に食わない有権者が多い地区の投票所を閉鎖したり、投票の際の待ち時間を長くしたりしている」と、カリフォルニア大学バークレー校のフィリップ・スターク教授(統計学)は言う。新型コロナの蔓延は、当局が投票を制限する行為を正当化する口実になると、スタークは指摘する。

このような状況で、11月にどのような結果が待っているかは予想がつく。民主党が勝てば、共和党は郵便投票で大量の不正投票があったと主張する。共和党が勝てば、民主党は、民主党支持者の投票が不当に妨げられたと主張するだろう。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ベトナムとロシア、原発建設に向け早期の協定締結で合

ワールド

ウクライナ、ハンガリーのスパイ拘束 互いに外交官追

ワールド

米はしか感染者、5年ぶりに1000人突破 再流行の

ワールド

スロバキア首相、ロシア戦勝記念式典への出席阻むEU
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
2025年5月 6日/2025年5月13日号(4/30発売)

「ゼロから分かる」各国・地域情勢の超解説と時事英語

メールマガジンのご登録はこちらから。
メールアドレス

ご登録は会員規約に同意するものと見なします。

人気ランキング
  • 1
    心臓専門医が「絶対に食べない」と断言する「10の食品」とは?...理想は「1825年の食事」
  • 2
    脂肪は自宅で燃やせる...理学療法士が勧める「3つの運動」とは?
  • 3
    健康は「何を食べないか」次第...寿命を延ばす「5つの指針」とは?
  • 4
    部下に助言した時、返事が「分かりました」なら失敗…
  • 5
    5月の満月が「フラワームーン」と呼ばれる理由とは?
  • 6
    SNSにはトップレス姿も...ヘイリー・ビーバー、ノー…
  • 7
    シャーロット王女の「親指グッ」が話題に...弟ルイ王…
  • 8
    「2025年7月5日に隕石落下で大災害」は本当にあり得…
  • 9
    ロシア機「Su-30」が一瞬で塵に...海上ドローンで戦…
  • 10
    シャーロット王女とスペイン・レオノール王女は「どち…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中