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米大統領選2020:トランプの勝算 バイデンの誤算

運命の大統領選、投票後のアメリカを待つカオス──両陣営の勝利宣言で全米は大混乱に

THE COMING ELECTION NIGHTMARE

2020年9月25日(金)16時45分
デービッド・H・フリードマン(ジャーナリスト)

その結果、両候補とも当選に必要な270人の選挙人を獲得できない事態も考えられる。幸い、選挙で勝者が確定しない場合の規定は憲法にある。下院の投票で次の大統領を決めるのだ(各州選出の議員団がそれぞれ1票ずつの投票権を持つ)。

現在の構成は、共和党が多数派の議員団が26、民主党が23、両党同数が1となっている。この数字のとおりなら、トランプが勝つ。しかし議員団の投票は21年1月3日以降に行われる公算が高く、既に11月の選挙で議員の顔触れは変わっている。その結果、共和党の議席が民主党に少しだけ移動すれば、投票は25対25の同点になる可能性が出てペロシ下院議長が次の大統領になると、ダグラスは解説する。「憲法には再選挙の規定はない。法律には不備があり、この種の危機を解決できない」

最悪の事態を回避できるか

もしトランプが選挙プロセスを自分の手で覆すことにした場合には、いくつかの手段がある。既に選挙の延期をにおわせているが、共和党内にも支持する声はほとんどない。

新型コロナの流行が秋まで続いていたり、抗議デモが激化した場合、それを理由に非常事態を宣言することも考えられる。選挙の中止はもちろん、延期についても憲法上の根拠はない。だがトランプは以前にも、イスラム教徒の入国禁止や抗議デモを鎮圧するための連邦軍の派遣など、憲法の規定に抵触する政策を実行しようとしたことがある。

選挙が無事に行われて、バイデンが勝ったとしても、トランプが不正選挙だと主張する可能性がある。保守派が多数派を占める最高裁は、それをどう判断するのか。2000年の大統領選では、最高裁はゴアよりブッシュに有利な判断を示した。

たとえ一時的でも、選挙の延期や無効、選挙結果の変更を命じる動きがあれば、全米で大規模な抗議行動を誘発するはずだ。「法と秩序」を選挙戦略の売り物にするトランプは、「過激な左翼」に対する支持者の憎悪をあおり、力による鎮圧を呼び掛けるかもしれない。警察が右派の暴力を大目に見る可能性もある。連邦軍がどう動くかは誰にも分からない。

11月にこんな惨事が起こるのを避ける方法が1つだけあると、ダグラスは言う。バイデンかトランプが疑問の余地のない勝利を収めることだ。

「トランプは、バイデンが新しい最高司令官になることを知った米軍の手でホワイトハウスから引きずり出される屈辱を受け入れないはずだ。トランプは自分の意思で出て行くだろう。それで終わりにすべきだ」

武装した左右両派が通りにあふれ出し、選挙の敗北(または盗まれた勝利)に怒りをぶちまける事態に比べれば、夢のような結末だ。

<2020年9月15日号「米大統領選2020:トランプの勝算 バイデンの誤算」特集より>

【関連記事】アメリカ政治に地殻変動を引き起こす人口大移動──「赤い州」を青く染める若者たち

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