運命の大統領選、投票後のアメリカを待つカオス──両陣営の勝利宣言で全米は大混乱に
THE COMING ELECTION NIGHTMARE
過去の選挙では、どれほど対立が激化しても選挙プロセスそのものは尊重されてきた。2000年の大統領選でジョージ・W・ブッシュの勝利が確定したのは、フロリダ州の票の再集計をめぐる訴訟で連邦最高裁判所が事実上ブッシュの勝訴となる判決を下したからではない。民主党候補のアル・ゴアがアメリカの民主主義制度を尊重して潔く敗北を認めたからだ。
有権者を惑わす大量の偽情報
もしも敗者が開票結果を受け入れなかったらどうなるか。ただでさえ大統領が選挙の規範や法律を無視するような態度を取るのは由々しき事態だが、今は状況が悪過ぎる。
中国、ロシア、北朝鮮が投票システムをハッキングする懸念もあるし、オバマが警告するように低所得層やマイノリティーの投票を妨げるような動きも目につく。新型コロナの猛威は一向に収まらず、感染を恐れて人々が投票所に行くのをためらうことも予想される。西部を中心に人種差別に対する抗議デモも再び激化している。
さらに、今回の大統領選では選挙人制度が機能不全を起こし、いつまでも結果が確定せず、アメリカ全体が憲法上の危機に陥る懸念もある。
こうした要因から、今回の選挙では大多数の有権者が正当と認める勝者が生まれない確率が極めて高い。
分断と対立が激化するなかで実施された大統領選が両陣営のなじり合いに終わったら、人々はどう反応するだろう。今のアメリカに渦巻く怒りや疑念、不安を見ると、11月3日以降何日も混乱が続くのはほぼ確実だ。ここ数カ月、感染防止のための規制にしびれを切らし、路上や公共の場で自動小銃を振りかざし(時には発砲する)市民の姿を全米各地で目にするようになった。
「選挙後36時間以内に(民主党候補のジョー・)バイデンとトランプの双方が勝利宣言をしたら、どうなるか」と、クリント・ワッツ元FBI特別捜査官は言う。「私が最も懸念するのは、自動小銃を持った連中が(通りに)現れる事態だ。本格的な暴動とまではいかなくとも、あっという間に大混乱になる」
そうなればトランプには、連邦軍を出動させる口実ができる。
サイバー攻撃に詳しいワッツによると、せめてもの救いは2016年の大統領選で民主党の足を引っ張ったロシアが今回はさほど介入に乗り気でないように見えること。ロシアが余計な工作をしなくとも、トランプと共和党が人々の不安と怒りをあおるフェイクニュースを大量にばらまいているからだ。
2016年の選挙では偽情報が結果を大きく左右した。主としてそのために、民主党支持者をはじめ多くのアメリカ人は前回の大統領選が100%公正な選挙だったとは考えていない。
今回の選挙でも偽情報が猛威を振るうだろう。フェイスブックは7月上旬、トランプ支持の偽情報を流していた100のアカウントを閉鎖。いずれも偽証罪などで有罪になったトランプの盟友ロジャー・ストーンと関連があるとみられるものだ。