最新記事

メンタルヘルス

コロナ禍による将来展望の悪化が、若者のメンタルを蝕んでいる

2020年9月16日(水)16時30分
舞田敏彦(教育社会学者)

若者に関して言えば、将来展望と自殺は非常に強く相関している。自殺率と相関する経済指標としては失業率があり、両者の時系列的共変関係は前に示したことがある(「失業率とシンクロする自殺率の推移」本欄2019年1月9日掲載)。失職による生活苦が自殺につながる、という因果経路を想定するのは容易い。しかし若者に限ると、失業と自殺はそれほど強く相関していない。いざとなったら親に頼れる、という事情もあるだろう。

若者の自殺率は、「これから先、生活が悪くなっていく」という見通しの暗さと相関する。後者は、世論調査のデータで数値化できる。20代男性を取り出し、将来展望の悪さと自殺率の推移を描くと、<図1>のようになる。

data200916-chart02.jpg

過去40年あまりの推移だが、動きがよく似ている。バブル期がボトムで、平成不況期に跳ね上がり、近年の好況期では下がっている。相関係数は+0.845で、明らかな相関関係が見受けられる。2020年までグラフを延ばしたら、2本とも上昇に転じているだろう。将来の見通しと自殺がここまで強く相関するのは、前途ある若年層に特徴的な現象だ。

コロナショックによる就職の失敗や雇止めに加え、最近では長らく続いてきた終身雇用・年功賃金の崩壊も言われ、今の若者は未曽有の将来不安に晒されている。こういうことも、若者の自殺増加の要因になっているとみられる。

生活が不安定化した人間は、些細なプル要因がきっかけで自殺へと傾きやすくなるが、実行に至ってしまうかどうかは、当人がどれほど社会に包摂されているかによる。若者が慣れ親しんでいるSNS等を使った相談体制の構築、すなわちインクルージョンの網を張り巡らせる必要がある。求められるのは、生活困窮者への経済的支援だけではない。

<資料:厚労省「自殺の状況」
    内閣府『国民生活に関する世論調査』
    厚労省『人口動態統計』

<関連記事:日本は事実上の「学生ローン」を貸与型の「奨学金」と呼ぶのをやめるべき
<関連記事:政府が教育にカネを出さない日本に未来はあるか

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

仏当局、ディープシークに質問へ プライバシー保護巡

ビジネス

ECB総裁、チェコ中銀の「外貨準備にビットコイン」

ビジネス

米マスターカード、第4四半期利益が予想上回る 年末

ワールド

米首都近郊の旅客機と軍ヘリの空中衝突、空域運用の課
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプ革命
特集:トランプ革命
2025年2月 4日号(1/28発売)

大統領令で前政権の政策を次々覆すトランプの「常識の革命」で世界はこう変わる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 2
    週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
  • 3
    「DeepSeekショック」の株価大暴落が回避された理由
  • 4
    今も続いている中国「一帯一路2.0」に、途上国が失望…
  • 5
    東京23区内でも所得格差と学力格差の相関関係は明らか
  • 6
    ピークアウトする中国経済...「借金取り」に転じた「…
  • 7
    空港で「もう一人の自分」が目の前を歩いている? …
  • 8
    DeepSeekショックでNVIDIA転落...GPU市場の行方は? …
  • 9
    トランプのウクライナ戦争終結案、リーク情報が本当…
  • 10
    血まみれで倒れ伏す北朝鮮兵...「9時間に及ぶ激闘」…
  • 1
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 2
    世界初の研究:コーヒーは「飲む時間帯」で健康効果が異なる【最新研究】
  • 3
    週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
  • 4
    緑茶が「脳の健康」を守る可能性【最新研究】
  • 5
    「DeepSeekショック」の株価大暴落が回避された理由
  • 6
    DeepSeekショックでNVIDIA転落...GPU市場の行方は? …
  • 7
    血まみれで倒れ伏す北朝鮮兵...「9時間に及ぶ激闘」…
  • 8
    有害なティーバッグをどう見分けるか?...研究者のア…
  • 9
    煩雑で高額で遅延だらけのイギリス列車に見切り...鉄…
  • 10
    日鉄「逆転勝利」のチャンスはここにあり――アメリカ…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    有害なティーバッグをどう見分けるか?...研究者のアドバイス【最新研究・続報】
  • 3
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 4
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 5
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 6
    「涙止まらん...」トリミングの結果、何の動物か分か…
  • 7
    「戦死証明書」を渡され...ロシアで戦死した北朝鮮兵…
  • 8
    中国でインフルエンザ様の未知のウイルス「HMPV」流…
  • 9
    失礼すぎる!「1人ディズニー」を楽しむ男性に、女性…
  • 10
    戦場に「杖をつく兵士」を送り込むロシア軍...負傷兵…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中