コロナ禍による将来展望の悪化が、若者のメンタルを蝕んでいる
若者に関して言えば、将来展望と自殺は非常に強く相関している。自殺率と相関する経済指標としては失業率があり、両者の時系列的共変関係は前に示したことがある(「失業率とシンクロする自殺率の推移」本欄2019年1月9日掲載)。失職による生活苦が自殺につながる、という因果経路を想定するのは容易い。しかし若者に限ると、失業と自殺はそれほど強く相関していない。いざとなったら親に頼れる、という事情もあるだろう。
若者の自殺率は、「これから先、生活が悪くなっていく」という見通しの暗さと相関する。後者は、世論調査のデータで数値化できる。20代男性を取り出し、将来展望の悪さと自殺率の推移を描くと、<図1>のようになる。
過去40年あまりの推移だが、動きがよく似ている。バブル期がボトムで、平成不況期に跳ね上がり、近年の好況期では下がっている。相関係数は+0.845で、明らかな相関関係が見受けられる。2020年までグラフを延ばしたら、2本とも上昇に転じているだろう。将来の見通しと自殺がここまで強く相関するのは、前途ある若年層に特徴的な現象だ。
コロナショックによる就職の失敗や雇止めに加え、最近では長らく続いてきた終身雇用・年功賃金の崩壊も言われ、今の若者は未曽有の将来不安に晒されている。こういうことも、若者の自殺増加の要因になっているとみられる。
生活が不安定化した人間は、些細なプル要因がきっかけで自殺へと傾きやすくなるが、実行に至ってしまうかどうかは、当人がどれほど社会に包摂されているかによる。若者が慣れ親しんでいるSNS等を使った相談体制の構築、すなわちインクルージョンの網を張り巡らせる必要がある。求められるのは、生活困窮者への経済的支援だけではない。
<資料:厚労省「自殺の状況」、
内閣府『国民生活に関する世論調査』、
厚労省『人口動態統計』>
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