シリアが「積極的無策」でコロナ感染爆発を隠す理由
Inside Syria’s Secret Crisis
首都ダマスカスの病院で感染予防のマスクを着ける医療従事者(3月19日) Omar Sanadiki-REUTERS
<爆発的な感染拡大が進行しているのは事実だが、アサド政権が隠蔽工作を続ける切実な裏事情とは>
シリア国内における新型コロナウイルスの公式の感染者数は、通貨リア・ポンドの公式の対米ドル為替レートと同じくらい正確だ──シリアの首都ダマスカスでは最近、こんなブラックジョークが人気を博している。
内戦と経済制裁、経済危機への対応に追われてきたシリアでは以前から、新型コロナウイルスの感染が爆発的に拡大しているとの噂がささやかれてきた。アサド政権は絶対に認めないだろうが、フォーリン・ポリシー誌はこの噂が事実であると確認。当局がかたくなに否定する背景には、なんとも皮肉な裏事情があることが分かってきた。
7月20日午後4時、高熱と呼吸困難で苦しそうな様子のアナス・アル・アブドラ(仮名)が、ダマスカス市内のムジタヒド病院に運び込まれた。12時間後、彼は死亡し、すぐに郊外の砂漠地帯にあるナジハ墓地に埋葬された。
ナジハ墓地と言えば、シリアの悪名高い刑務所で命を落とした無数の人々が埋葬されてきたといわれる場所。だが最近の衛星写真を分析すると、この地に新型コロナウイルスによる死者が多数埋葬されていることがうかがえる。
悲嘆に暮れるアブドラの遺族に向かって医師は、新型コロナに感染していたと伝えた。だが死亡証明書には肺炎による死亡としか記されておらず、家族は困惑している。
反政府陣営を支持する聖職者であるアブドラの父は情報機関に目を付けられていたため、弾圧を恐れてカタールで避難生活を送っている。だがアブドラは、危険を顧みずにアサド政権に歯向かえば残忍な処罰を受けるという不文律があるにもかかわらず、国内にとどまっていた。
彼は当局の標的ではなかった。だが結局は、シリア政府の非効率なコロナ対策のせいで殺されてしまった。
入院した先はダマスカス市内に3カ所ある新型コロナ対応の大型病院だったが、アブドラは人工呼吸器なしで呼吸ができず死に至った。彼の兄が匿名を条件にこう語ってくれた。「死者数を少なく見せたい政府に頼まれて、医師が本当の死因を隠したのかどうかは分からない。頭が混乱している。でもこれ以上は話せない。微妙な立場だから」
隣国ヨルダンは国境閉鎖
シリア政府の発表では、新型コロナ感染者数はわずか2500人ほどで、死者数は約100人。だがこの数字は実態のごく一部にすぎないと、筆者が話を聞いた10人以上のシリア人は口をそろえる。その中には、家族が新型コロナで死んだのではないかと疑念を持つ人や、怖くて感染した事実を報告しなかった人、接触者を追跡できず、患者と医療従事者の身を守る最低限の装備さえ足りない現状に不満を募らせる医療関係者などが含まれている。
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