シリアが「積極的無策」でコロナ感染爆発を隠す理由
Inside Syria’s Secret Crisis
これまでに少なくともダマスカスの高位聖職者6人とメディア幹部3人、裁判官2人、新憲法の起草を目指すシリア憲法委員会の複数の委員らの感染が確認されている。隣国ヨルダンがシリアからの感染流入の激化を受けて、シリアとの国境を閉鎖したことも、シリアでの爆発的な感染拡大を裏付ける証拠と言える。
アブドラの兄との会話を機に、筆者はアブドラが暮らしていたダマスカス市内のアルミダン地区で自主隔離生活を送る多くの人々に話を聞くことができた。彼らは、同じような立場の人がもっと大勢いると主張する。
アブドラの甥とその隣人はどちらも新型コロナの症状が出ているが、国営の病院に行くのはできる限り避け、自宅で療養したいと話す。「隔離センターに行くのは怖い。刑務所みたいな場所だから」と、アブドラの甥は言う。「政府が怖いんだ」
「隔離センターは拘置所みたいで、民間人も拷問されて殺される」と、隣人が付け加える。彼らの言葉には、長年にわたって政府に抑圧され、体制批判の容疑がかかればすぐに投獄されてきた多くのシリア人が抱える国家への深い恐怖心がにじみ出ている。
こうした一種の「感染隠し」が、表向きはシリアの感染者が少なく抑えられている理由の1つだ。現体制に批判的な人は、どんな形であれ当局の目につきたくない。また、ろくな設備もない病院に入院しても、放置されて死ぬだけだと申告を避ける人もいる。
だが、シリアにおけるコロナ禍の実態把握を妨げているもっと大きな問題は、政府の積極的無策ともいえる姿勢だ。
ムジタヒド病院に勤務するある整形外科医は、明らかに新型コロナの症状を示す親戚30人に検査を受けさせたいと考えているが、実現していない。既に父親は新型コロナに感染して死亡した。だが保健省から感染経路を聞かれたことはないし、そもそも同省には感染拡大を抑え込もうという意欲すら感じられない。
「病院は1日1万人の検査をする必要があるが、せいぜい10%程度しかできていない」と、この医師は語る。「ムジタヒド病院に人工呼吸器は13〜15台しかなく、ダマスカス全体でも130台程度だ」
このままでは、今後数週間でダマスカス市民の4人に1人が感染する恐れがあると、医師は警告する。「政府は分かっているはずだ。それなのになぜ真実を明らかにしないのか、理解できない」
忠誠派もアサドに不満
元外交官のバサーム・バラバンディは、シリアに新型コロナをもたらしたのはイラン人だと考えている。アサド政権はイランの支援を受けており、ダマスカス近郊にはイラン革命防衛隊と、イランの代理勢力でレバノンの武装組織ヒズボラの要員が駐留している。イランは新型コロナの感染爆発が最初に起きた国の1つだが、「その震源は今、イランからシリアに移った」と、バラバンディは言う。アサド政権は3月にロックダウン(都市封鎖)を実施したが、経済のダメージが大き過ぎて、すぐに解除してしまった。
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