最新記事

独占インタビュー

イアン・ブレマーが説く「協調なき時代」に起きた米中対立の行方

LIVING IN THE GZERO WORLD

2020年9月24日(木)13時00分
ニューズウィーク日本版編集部

ポトリッキオ 経済学者のブランコ・ミラノビッチの講演を聴きに行ったときのことだが、国家が分裂する理由の1つは国内の地方間の経済格差であると指摘されていた。アメリカが南北戦争後に分裂しなかった理由の1つは、豊かな州と貧しい州の間で人口1人当たりの経済格差が1・5倍程度に収まっていたことにあると私は思う。では、アメリカを相手に超大国の座を争っている中国の、いわばアキレス腱は何だろう?

ブレマー かつてソ連の崩壊を招いたのは、ソ連邦内での自立と独立独歩だった。小さな帝国のような存在であったソ連は、共和国や自治区など、各地方における民族的なアイデンティティーの存続を許した。

やがて中央から地方へと政治的な権限移譲を進めていくうち、各地でナショナリズムが台頭した。1988年には本格的な分離独立運動が始まり、ヨーロッパではベルリンの壁が崩壊した。そしてこれがソ連邦の終焉につながった。

そのような気配は、中国には全くない。中国のナショナリズムは例外的に強力だ。政府に反対する人物を特定して抑圧する監視国家であり、特にウイグル人のような少数民族を力ずくで統合する仕組みがある。ソ連にそのようなものは全然なかった。だから中国は、ソ連のようなことにはならないだろう。

だが中国にも深刻な問題があると思う。中国のアキレス腱は、国内ではなく国外にある。かつてWTO(世界貿易機関)加盟時に見られたような、各国と足並みをそろえようとする姿勢が今はない。

WTOに加盟するとき、中国は「わが国は国際的な標準や規範を受け入れる、少なくともそれで世界の豊かな地域にアクセスできるのならば。それで中国が豊かになれるのなら規則は守る」という姿勢を見せた。

しかし今はデータの時代、テクノロジーの時代だ。今までのやり方は通用しない。通用すると中国側は思っていたが、そうはいかないだろう。結局のところ、彼らはとても巨大な国内市場にとどまることになる。それはそれで結構なことだが、国内市場には膨大な企業債務とさまざまな非効率が山積している。

その一方で中国は最貧国との貿易で圧倒的な強みを発揮している。だが既に多くの最貧国は債務を返済できずにいる。中国の立場は決して良くないと考えられる。

アメリカが手を結ぶのはオーストラリアやニュージーランド、日本、韓国、イギリス、欧州諸国だ。ある程度まではインドとも協力することになるだろう。対する中国は、東南アジア、サハラ砂漠以南のアフリカ、東欧と中南米の最貧国の一部を味方に付けるだろう。しかし、それで超大国になれる保証はない。(後編に続く)

<2020年9月8日号掲載>

20200908issue_cover150.jpg
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

9月8日号は「イアン・ブレマーが説く アフターコロナの世界」特集。「Gゼロ」の世界を予見した国際政治学者が読み解く米中・経済・テクノロジー・日本の行方。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米輸入物価、3月は‐0.1% エネルギー価格低下で

ワールド

カナダ、報復関税の一部免除へ 自動車メーカーなど

ワールド

米アップル、3月にiPhoneを駆け込み空輸 イン

ワールド

NATO事務総長「揺るぎない支援」再表明、オデーサ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプショック
特集:トランプショック
2025年4月22日号(4/15発売)

大規模関税発表の直後に90日間の猶予を宣言。世界経済を揺さぶるトランプの真意は?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    パニック発作の原因とは何か?...「あなたは病気ではない」
  • 2
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜け毛の予防にも役立つ可能性【最新研究】
  • 3
    あなたには「この印」ある? 特定の世代は「腕に同じ印がある」説が話題...「インディゴチルドレン?」
  • 4
    NASAが監視する直径150メートル超えの「潜在的に危険…
  • 5
    中国はアメリカとの貿易戦争に勝てない...理由はトラ…
  • 6
    【クイズ】世界で2番目に「話者の多い言語」は?
  • 7
    「世界で最も嫌われている国」ランキングを発表...日…
  • 8
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 9
    そんなにむしって大丈夫? 昼寝中の猫から毛を「引…
  • 10
    動揺を見せない習近平...貿易戦争の準備ができている…
  • 1
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最強” になる「超短い一言」
  • 2
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜け毛の予防にも役立つ可能性【最新研究】
  • 3
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止するための戦い...膨れ上がった「腐敗」の実態
  • 4
    クレオパトラの墓をついに発見? 発掘調査を率いた…
  • 5
    「ただ愛する男性と一緒にいたいだけ!」77歳になっ…
  • 6
    投資の神様ウォーレン・バフェットが世界株安に勝っ…
  • 7
    コメ不足なのに「減反」をやめようとしない理由...政治…
  • 8
    まもなく日本を襲う「身寄りのない高齢者」の爆発的…
  • 9
    動揺を見せない習近平...貿易戦争の準備ができている…
  • 10
    あなたには「この印」ある? 特定の世代は「腕に同じ…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛ばす」理由とは?
  • 3
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 4
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山…
  • 5
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 6
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 7
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 8
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
  • 9
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 10
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中