イアン・ブレマーが説く「協調なき時代」に起きた米中対立の行方
LIVING IN THE GZERO WORLD
ポトリッキオ 経済学者のブランコ・ミラノビッチの講演を聴きに行ったときのことだが、国家が分裂する理由の1つは国内の地方間の経済格差であると指摘されていた。アメリカが南北戦争後に分裂しなかった理由の1つは、豊かな州と貧しい州の間で人口1人当たりの経済格差が1・5倍程度に収まっていたことにあると私は思う。では、アメリカを相手に超大国の座を争っている中国の、いわばアキレス腱は何だろう?
ブレマー かつてソ連の崩壊を招いたのは、ソ連邦内での自立と独立独歩だった。小さな帝国のような存在であったソ連は、共和国や自治区など、各地方における民族的なアイデンティティーの存続を許した。
やがて中央から地方へと政治的な権限移譲を進めていくうち、各地でナショナリズムが台頭した。1988年には本格的な分離独立運動が始まり、ヨーロッパではベルリンの壁が崩壊した。そしてこれがソ連邦の終焉につながった。
そのような気配は、中国には全くない。中国のナショナリズムは例外的に強力だ。政府に反対する人物を特定して抑圧する監視国家であり、特にウイグル人のような少数民族を力ずくで統合する仕組みがある。ソ連にそのようなものは全然なかった。だから中国は、ソ連のようなことにはならないだろう。
だが中国にも深刻な問題があると思う。中国のアキレス腱は、国内ではなく国外にある。かつてWTO(世界貿易機関)加盟時に見られたような、各国と足並みをそろえようとする姿勢が今はない。
WTOに加盟するとき、中国は「わが国は国際的な標準や規範を受け入れる、少なくともそれで世界の豊かな地域にアクセスできるのならば。それで中国が豊かになれるのなら規則は守る」という姿勢を見せた。
しかし今はデータの時代、テクノロジーの時代だ。今までのやり方は通用しない。通用すると中国側は思っていたが、そうはいかないだろう。結局のところ、彼らはとても巨大な国内市場にとどまることになる。それはそれで結構なことだが、国内市場には膨大な企業債務とさまざまな非効率が山積している。
その一方で中国は最貧国との貿易で圧倒的な強みを発揮している。だが既に多くの最貧国は債務を返済できずにいる。中国の立場は決して良くないと考えられる。
アメリカが手を結ぶのはオーストラリアやニュージーランド、日本、韓国、イギリス、欧州諸国だ。ある程度まではインドとも協力することになるだろう。対する中国は、東南アジア、サハラ砂漠以南のアフリカ、東欧と中南米の最貧国の一部を味方に付けるだろう。しかし、それで超大国になれる保証はない。(後編に続く)
<2020年9月8日号掲載>

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9月8日号は「イアン・ブレマーが説く アフターコロナの世界」特集。「Gゼロ」の世界を予見した国際政治学者が読み解く米中・経済・テクノロジー・日本の行方。