「バイデン政権」、外交に関しては内向きなトランプ流継承か
世界各地の元外交高官は、トランプ氏が米国の指導力への信任を大きく損なったと口をそろえる。大統領選挙でバイデン氏が勝利すれば、多くの外国政府が、10年以上前にジョージ・ブッシュ(子)大統領の時代が終わったときよりも大きな安堵の息をつくことになるとも指摘する。写真は20日、米民主党全国大会で演説するバイデン氏。デラウェア州ウィルミントンで撮影(2020年 ロイター/Kevin Lamarque)
トランプ米大統領は2016年に大統領選で選出が決まったほぼ直後から、喜々として、前任のオバマ大統領が注意深く作り上げてきた外交遺産をぶち壊す努力を始めた。
続く数日間で、数カ月、数年間で、トランプ氏はアジア太平洋地域の貿易の枠組みである環太平洋連携協定(TPP)を投げ出し、地球温暖化対策のパリ協定も、イラン核合意も、さらには何十年も続いてきたキューバとの敵対関係をようやく終わりにするプロセスさえ、放り出してきた。
トランプ氏はドイツ政府から日本政府に至る長年の同盟国に対しても公然と攻撃し、一方でロシアのプーチン大統領から北朝鮮の金正恩朝鮮労働党委員長まで、独裁支配者を褒め讃えた。ただ、中国の習近平主席に対しては称賛を重ねたあげく、中国政府との貿易戦争と非難の応酬に乗り出し、新たな冷戦の懸念や、軍事的衝突の懸念さえ誘発している。
世界各地の元外交高官は、トランプ氏が米国の指導力への信任を大きく損なったと口をそろえる。今年11月3日の大統領選挙でバイデン前副大統領が勝利すれば、多くの外国政府が、10年以上前にジョージ・ブッシュ(子)大統領の時代が終わったときよりも大きな安堵の息をつくことになるとも指摘する。
元高官らは、民主党政権に代わればオバマ政権時を思わせる政策への回帰に向けて素早く行動が起こされると期待する。まずはパリ協定への復帰だ。
しかし、トランプ氏が世界中に不快感を与えたのは確かだが、同氏のすべての政策の遺産が一気に窓から投げ出されるわけではないし、昔からの同盟国も戦略的なライバル国も、上院議員としても長年外交政策に精通してきたバイデン氏がお手柔らかに接してくれることは期待していない。トランプ氏が標榜した「米国第一主義」によって具現化された米国の内向き志向が、大きく変わるとの期待もしていない。
フランスの元駐米大使ジェラルド・アラウド氏は「われわれはまさに、中国やロシアとの力の外交の枠組みの中で、米国の新たな外交政策を明確にするという移行期にいる。これはまさに新しい世界だ」と話す。「米国の大統領たちはこれから、米国自身の国益へのコミットメントを強めていくだろう。米国はもはや世界の警察官でありたくないし、このことを実はオバマ氏もトランプ氏も理解していると思う」という。
トランプ氏の中国戦争
トランプ政権は中国については最近、新型コロナウイルスの発端から情報窃取疑惑に至るまで幅広い問題で攻撃色を強め、懸念を引き起こしてきた。しかし、バイデン政権が誕生しても、対中政策となれば実質的な変化は少ないとの見方は広く共有されている。
実際のところ、トランプ氏がオバマ氏とバイデン氏について中国に「弱腰」とレッテルを貼ろうとしてきた一方で、オバマ政権は当初、トランプ政権よりも強硬な対中姿勢を追求していたのだ。