最新記事

2020米大統領選

「バイデン政権」、外交に関しては内向きなトランプ流継承か

2020年8月30日(日)13時04分

元米国防総省当局者で中国専門家のマイケル・ピルズベリー氏は一時、トランプ政権の外部アドバイザーも務めたが、同氏によると、オバマ政権の最後の2年間に対中戦略は変わっていたという。

ピルズベリー氏によれば、バイデン氏の外交アドバイザーの面々、即ちエリー・ラトナー氏、カート・キャンベル氏、ブライアン・マッケオン氏、トニー・ブリンケン氏、ボブ・ワーク氏、アッシュ・カーター氏はいずれも、かつて中国について厳しい分析をしてきたし、中国の軍事的増強や情報窃取活動や貿易慣行について深い懸念を共有していた。

キャメロン元英首相の国家安全保障顧問を務めたピーター・リケッツ氏は、トランプ氏の中国政策を一部は評価するとしつつも、懸念も口にする。「トランプ政権は、中国政府のひどく強引な外交政策や国内で反体制派と見なした者たちへの弾圧などの振る舞いについて、膨れ上がる懸念を具体的な形にした。トランプ政権が進んで中国の前面に出て、そうした振る舞いを問題にする、つまり声高に非難しようとしたのは良いことだ」というのが同氏の評価。ただ、トランプ政権のそうした姿勢が今や行き過ぎてしまい、中国と全面対決の冷戦モードに突き進みかねないリスクがあると指摘する。

過去に英首相3人の外交顧問だったトム・フレッチャー氏によると、バイデン政権になっても対中政策が大きく変わるとはみていないが、摩擦は避けるスタイルになるだろうという。「バイデン氏の対中政策がトランプ氏の政策からかけ離れたものになるとは思わない。ただ、使われる文言は変わるだろうし、もっと分別や戦略に裏打ちされた文言になるだろう」。

対北朝鮮外交については、トランプ氏による前代未聞の、しかしなおも実を結んでいない同国への関与が、将来的には米朝関係の基礎になる可能性があるとの分析も聞かれる。

失われた米国の信頼

欧州連合(EU)の元駐米大使デービッド・オサリバン氏は、トランプ氏が外交に「壊滅的な打撃」をもたらしたとし、米国のイメージと指導的役割の再建には時間がかかるとみる。

しかし、オサリバン氏は、自国が海外にこれほどまでに関与する必要があるのかと懸念を深める米国人がいることや、一部同盟国が役目を果たしていないと感じる米国人がいることにも言及。こうした中で「トランプ氏が大統領選で負けても、欧州で涙を流す者はいないだろう」と手厳しい。トランプ政権は「とりわけ能力に欠け、不手際で、率直に言って同盟国と疎遠になり、それまでは敵対者と見なされていた国を安心させる傾向があった」と指摘する。

ただし、オサリバン氏は、バイデン政権が欧米協調の黄金時代を目指すとの幻想を持つ者もいないと警告する。「欧州と米国の食い違いはこれからも続く。ただ、われわれは相互に敬意を払うということから始めることはできる」という。

オサリバン氏らによると、バイデン氏がイラン核合意やTPPへの復帰を目指す可能性は高いが、その場合も、トランプ氏がしばしば口にしたような「より有利なディール」を確実にするような取り決めの改変は必ず求めてくるだろうという。

ブッシュ政権で国務省報道官、オバマ政権でバーレーン大使だったアダム・エレリ氏は、欧州勢などの脳裏にあるのは「トランプ的な外交が結局、再現されることになるのだろうか」という思いだと指摘した。

(David Brunnstrom記者、Humeyra Pamuk記者、Luke Baker記者)

[ロイター]


トムソンロイター・ジャパン

Copyright (C) 2020トムソンロイター・ジャパン(株)記事の無断転用を禁じます


【関連記事】
・米ウィスコンシン州、警官が黒人男性に発砲し重体 抗議活動で外出禁止令
・巨大クルーズ船の密室で横行するレイプ
・コロナ感染大国アメリカでマスクなしの密着パーティー、警察も手出しできず
・中国からの「謎の種」、播いたら生えてきたのは......?


20200901issue_cover150.jpg
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2020年9月1日号(8月25日発売)は「コロナと脱グローバル化 11の予測」特集。人と物の往来が止まり、このまま世界は閉じるのか――。11人の識者が占うグローバリズムの未来。デービッド・アトキンソン/細谷雄一/ウィリアム・ジェーンウェイ/河野真太郎...他

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

トランプ氏、米軍制服組トップ解任 指導部の大規模刷

ワールド

アングル:性的少数者がおびえるドイツ議会選、極右台

ワールド

アングル:高評価なのに「仕事できない」と解雇、米D

ビジネス

米国株式市場=3指数大幅下落、さえない経済指標で売
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ウクライナが停戦する日
特集:ウクライナが停戦する日
2025年2月25日号(2/18発売)

ゼレンスキーとプーチンがトランプの圧力で妥協? 20万人以上が死んだ戦争が終わる条件は

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン化」の理由
  • 3
    メーガン妃が「アイデンティティ危機」に直面...「必死すぎる」「迷走中」
  • 4
    1888年の未解決事件、ついに終焉か? 「切り裂きジャ…
  • 5
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 6
    ソ連時代の「勝利の旗」掲げるロシア軍車両を次々爆…
  • 7
    深夜の防犯カメラ写真に「幽霊の姿が!」と話題に...…
  • 8
    私に「家」をくれたのは、この茶トラ猫でした
  • 9
    飛行中の航空機が空中で発火、大炎上...米テキサスの…
  • 10
    トランプが「マスクに主役を奪われて怒っている」...…
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される【最新研究】
  • 3
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン化」の理由
  • 4
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 5
    動かないのに筋力アップ? 88歳医大名誉教授が語る「…
  • 6
    朝1杯の「バターコーヒー」が老化を遅らせる...細胞…
  • 7
    7年後に迫る「小惑星の衝突を防げ」、中国が「地球防…
  • 8
    ビタミンB1で疲労回復!疲れに効く3つの野菜&腸活に…
  • 9
    「トランプ相互関税」の範囲が広すぎて滅茶苦茶...VA…
  • 10
    墜落して爆発、巨大な炎と黒煙が立ち上る衝撃シーン.…
  • 1
    週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
  • 2
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 3
    【一発アウト】税務署が「怪しい!」と思う通帳とは?
  • 4
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」…
  • 5
    「健康寿命」を延ばすのは「少食」と「皮下脂肪」だ…
  • 6
    1日大さじ1杯でOK!「細胞の老化」や「体重の増加」…
  • 7
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 8
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 9
    世界初の研究:コーヒーは「飲む時間帯」で健康効果…
  • 10
    「DeepSeekショック」の株価大暴落が回避された理由
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中