タイ民主化求める若者デモ 政府はコロナ対策の規制も活用して締め付け強化
国王の慈悲で不敬罪適用停止と首相
タイの政治・社会・文化には「国王・王室」という絶対的なタブーが長年存在し、それに挑戦するような批判や侮辱に対しては「不敬罪」が適用され、1件につき最高で禁固15年という厳罰に処せられた。
外国メディアも例外ではなく、タイ国内での発行禁止や放送禁止、記者の国外追放などが科されてきた。
ところがプラユット首相によると、2014年に同首相が政権を掌握して以来これまでに約100人が「不敬罪」で起訴されたものの、2018年9月以降はそうした事例は確認されていないとタイの人権問題NGOなどが報告している。
こうした状況についてプラユット首相は6月に「現国王の慈悲によるものである」ことを初めて確認。絶対権力者である国王自身が「不敬罪」の適用停止を指示したものであることを明らかにした。
こうした「不敬罪適用停止」という流れが若者による反政府、反不敬罪、反言論統制のデモにもつながっているとみられ、まだ小さな動きに留まっているものの、政権に主張を堂々とぶつけるという近年のタイ社会でみられなかった活動に勢いを与えているといえるだろう。
もっとも活動家や学生組織には「いつ不敬罪が復活するのか」「いつ戒厳令などの統制が厳格化されるのか」などと予断を許さない状況であるとの認識は常に共有されている。現在のプラユット首相は2014年にクーデターで政権を奪取し、軍制を長らく続けてきた軍人であることからタイ国民の胸には刷り込まれた経験値として「軍人は信用できない」との認識があるのだという。
海外活動家の拉致、行方不明事件も
タイでは6月4日にカンボジアに逃れて国外から反体制、反王政の活動を主にインターネット上で続けていた活動家のワンチャルーム・ササクシット氏(37)が首都プノンペンで突然正体不明の男らに拉致され、その後消息が途絶えるという事件が起きている。
タイ、カンボジア両国治安当局は事件との関わりを否定しているが、過去の事例からしてタイ当局がカンボジア当局との共同作戦で同氏の身柄を拘束したのは確実とみられている。人権団体などはワンチャルーム氏の早期発見、釈放を求めているが消息に関する情報はほとんどなく、すでに殺害されている可能性も指摘されている。
タイではこのように国内での活動には不敬罪、国外での活動には拉致拘束という「強権発動」で反政府、反王室の動きを封じ込めてきた経緯がある。こうした過去の事例からもタブーである王室に批判的に触れることや軍事政権の面影を色濃く残す現プラユット政権への批判はしばしば生命の危険を伴うことがあるのだ。
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