最新記事

香港の挽歌

香港デモ強硬派、ある若者の告白「僕たちは自由を守るために悪魔になった」

BURNING FOR FREEDOM

2020年7月22日(水)16時30分
ニューズウィーク日本版編集部

magSR200722_HongKong3.jpg

デモ隊から中国本土の活動家と疑われ、ハンマーで頭を殴られて出血する男性(写真と本文は無関係) THOMAS PETER-REUTERS

夜までにデモ隊は立法会を占拠した。最初に突入したグループは自分たちを「死の戦士」と呼び、ゴム弾や実弾、そして10年の禁錮刑も受け入れる覚悟で、議事堂に陣取った。ケンはカメラを持って後を追った。

「どうせ香港はいつか滅びる。ならば、世界中の注目を浴びるなかで滅んだほうがいい。中国が罰せられることになるから」と、ケンは語る。

「僕は怒りで陶酔していた」

デモの参加者は監視カメラを壊して回った。監視カメラの映像データを破壊するためにIT担当のチームが制御室に向かっている、とデニースが言った。

議事堂で100人ほどが椅子などを破壊し始めた。香港の紋章を塗りつぶし、誰かがその上を英植民地時代の香港の旗で覆った。

人々が政治指導者の肖像画を破り、壁にスローガンを殴り書きしている間、デニースは骨董品や貴重な文献の棚の前で見張りをしていた。「私たちがここにいるのは政治構造を破壊するためで、人を傷つけたり、私たちの遺産を傷つけたりするためじゃない」

食堂の冷蔵庫から飲み物を取った人は、お金を置いた。粉々になったガラスをほうきで掃除する人もいた。

警察も当初は慎重で、警告を繰り返し、デモ隊が立ち去る時間を与えた。黒い服の若者が帰宅できるように、地下鉄の終電を遅らせた。

抗議活動はさらに数週間続いたが、7月21日に起きた2つの出来事が2つの転機となった。

日曜の午後に比較的平和なデモ行進が行われた後、一部が中国政府の出先機関である香港連絡弁公室の建物の前に集結。中国の国章に黒いインクの瓶や卵を投げ付けた。

多くの香港人にとって、赤い共産党旗は異質なシンボルであり、自分たちとは懸け離れた価値観を表している。しかし、中国本土の人々にとっては、国章というだけでなく、中国が歴史的な恥辱から飛躍して世界に名をはせたという宣言でもある。

これを機に、中国の国営メディアが一斉に抗議活動を報道し始めた。「外国の黒い手」を借りた香港の「反中暴動」を盛んに伝え、中国本土の人々は香港人を裏切り者と見なすようになった。

もう1つの事件は北部のベッドタウン、元朗で起きた。この日の夜に地下鉄の車内と元朗駅で、デモ参加者が少なくとも100人の暴徒に襲われたのだ。棒などで殴られて、頭蓋骨が割れ、骨が折れた。警察に数百件の通報があったが、現場に到着するまでに30分以上かかった。中国系マフィア「三合会」と警察が裏で手を組んでいたという噂が広まった。

その夜のニュース速報は、妊娠しているとされる女性1人を含む少なくとも45人が負傷したと伝えたが、逮捕者は1人もいなかった。

「警察が三合会と堂々と結託して、抗議活動の参加者を痛め付けるやり方に、頭がどうかなりそうだった」と、ケンは言う。かつての陽気な顔が、恨みでこわばっていた。

2つの事件を機に、抗議活動の暴力が激しくなり、中国政府は香港に対して強硬姿勢を強めた。

元朗の襲撃事件の後、ケンはガソリンと工業用アルコールを使った焼夷弾の作り方をネットで検索した。「次の抗議デモで、突撃してきた警察官にガソリン爆弾を投げた。彼らは退却した。うまくいった!」

その夜、ベッドに入ったケンはパニックに襲われた。汗が止まらず、逮捕されるのではないかと怯えた。

【関連記事】香港民主活動家の黄之鋒、議会選挙に出馬「最後の瞬間まで戦い続ける」

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

物価抑制に大きな進展、一段の取り組み必要=米ミネア

ワールド

韓国最大野党の李代表に逆転無罪判決、大統領選出馬に

ビジネス

独VWの筆頭株主ポルシェSE、投資先の多様化を検討

ビジネス

日産、25年度に新型EV「リーフ」投入 クロスオー
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:まだ世界が知らない 小さなSDGs
特集:まだ世界が知らない 小さなSDGs
2025年4月 1日号(3/25発売)

トランプの「逆風」をはね返す企業の努力が地球を救う

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    800年前のペルーのミイラに刻まれた精緻すぎるタトゥーが解明される...「現代技術では不可能」
  • 2
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き詰った「時代遅れ企業」の行く末は?【アニメで解説】
  • 3
    【独占】テスラ株急落で大口投資家が本誌に激白「取締役会はマスクCEOを辞めさせろ」
  • 4
    「この巨大な線は何の影?」飛行機の窓から撮影され…
  • 5
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山…
  • 6
    中国が太平洋における米中の戦力バランスを逆転させ…
  • 7
    一体なぜ、子供の遺骨に「肉を削がれた痕」が?...中…
  • 8
    【クイズ】アメリカで「ネズミが大量発生している」…
  • 9
    反トランプ集会に異例の大観衆、民主党左派のヒロイ…
  • 10
    老化を遅らせる食事法...細胞を大掃除する「断続的フ…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山ダムから有毒の水が流出...惨状伝える映像
  • 3
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛ばす」理由とは?
  • 4
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 5
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 6
    「低炭水化物ダイエット」で豆類はNG...体重が増えな…
  • 7
    「テスラ離れ」止まらず...「放火」続発のなか、手放…
  • 8
    古代ギリシャの沈没船から発見された世界最古の「コ…
  • 9
    【独占】テスラ株急落で大口投資家が本誌に激白「取…
  • 10
    【クイズ】世界で2番目に「レアアース」の生産量が多…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    テスラ離れが急加速...世界中のオーナーが「見限る」ワケ
  • 3
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 4
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛…
  • 5
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山…
  • 6
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 7
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 8
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 9
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦してい…
  • 10
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中